はじめに
クリニックの受付でキャッシュレス決済への対応を考えるとき、患者さんの利便性が向上することはもちろんですが、それ以外にも会計時の混雑が和らいだり、日々の現金管理の負担が軽くなったり、あるいは衛生面での配慮にもつながったりと、多くの利点が考えられます。しかしその一方で、「Square、Airペイ、STORES、PayPay、たくさんあるけれど、どれをどのように選べば良いのだろうか」というお声もよく耳にします。
この記事では、実際にキャッシュレス決済を導入されている医療機関の事例を参照しながら、それぞれのサービスが持つ強みや特徴を踏まえ、どのように使い分ければ現場の運用がスムーズになるのか、その考え方をできるだけ分かりやすく整理してみたいと思います。記事の途中では、会計業務の効率化の先にある、看護師採用や働きやすい環境づくりを支える具体的なご提案として、クーラのご案内も自然な形で触れさせていただきます。
背景と課題:なぜ医療現場のキャッシュレス化はゆっくり進むのか
「決済手数料の負担が気になってしまう」「今使っているレジやシステムと上手く連携できるか不安」「売上の入金サイクルが遅いのではないか」といったご懸念は、もっともなことだと思います。実際に、一般に公開されている様々な解説記事や調査でも、医療分野でキャッシュレス決済の普及が他の業種に比べて緩やかである理由として、「手数料負担への懸念」「患者さんからの需要がどの程度あるかという感覚」、そして「売上が現金化されるまでの期間」といった点が挙げられることが少なくありません。例えば、オンライン診療サービスを提供しているCLINICSのメディアでも、同様の課題が指摘されています。
一方で、経済産業省が公表している資料に目を向けると、海外の医療機関ではキャッシュレス決済の併用がごく一般的であり、その際にかかる決済手数料を患者さんに転嫁するのではなく、医療機関側の運営経費として扱う運用が広く行われていることが示されています。日本国内でも、オンライン診療の支払い手段としてQRコード決済が利用できる仕組みが整えられるなど、キャッシュレス化を進めるための土台は着実に整いつつある状況です。
こうした大きな流れを前提として、「どのサービスを、どの用途で使うと、日々の業務に無理なく馴染むのか」という視点で見極めながら導入の計画を立てることで、導入後の思わぬつまずきを避けやすくなるのではないでしょうか。
実例の紹介:小規模の病院やクリニックでの導入ストーリー
実際に各サービスを導入しているクリニックの事例を見ていくと、それぞれの環境や目的に合わせた選択をしている様子がうかがえます。
Squareを使った会計の簡素化(救急・歯科の例)
ある救急クリニックでは、Squareターミナルという一台の端末で、クレジットカードや電子マネーの決済からレシートの印刷、さらにはスタッフの勤怠管理までをまとめて運用しています。救急という慌ただしい現場であっても、設置や操作がシンプルで分かりやすい点が評価されているようです。この端末一つで多くの機能が完結するため、受付カウンターの限られたスペースを有効活用できるという側面もあります。
また、別の歯科クリニックでは、それまで利用していた他の決済サービスからSquareに切り替えたことで、売上の入金タイミングが「月に1回」から「最短で翌営業日」へと大幅に改善されたという事例があります。特に個人経営のクリニックなど、小規模な医療機関ほど、日々の資金繰りにおける安心感は大切な要素になると考えられます。
Airペイで往診や在宅医療を含む多様な会計に対応(内科の例)
ある内科医院では、今後の在宅医療や訪問看護の拡充を見据え、現金だけでは対応しきれない場面に備える目的でAirペイを導入されました。Airペイの強みは、クレジットカードはもちろん、SuicaやPASMOといった交通系ICカードや、Smart CodeやAlipay+といった仕組みを通じた多様なQRコード決済に幅広く対応できる点です。患者さんが普段から使い慣れている決済方法をそのまま利用できる可能性が高まります。
特にQRコード決済は、対応するブランドが継続的に増えているため、将来的には海外からの旅行者や日本で暮らす外国籍の患者さんへの対応力向上にもつながるかもしれません。
STORESの「医療向け特別プラン」を活かす(単科病院・クリニックの例)
STORES決済には、特定の医療業種を対象とした「医療向け特別プラン」が用意されています。このプランの適用が承認されると、クレジットカードの決済手数料を1.50%からという低い料率に抑えることが可能です。ただし、このプランは全ての医療機関が対象ではなく、例えば単科の病院や診療所などが主な対象で、薬局や美容クリニック、動物病院、総合病院などは対象外となる場合があるため、事前の確認が不可欠です。
また、STORESは決済だけでなく、オンライン予約システム(STORES予約)も提供しており、医療やヘルスケア分野向けの解説やテンプレートも公開しています。決済と予約を同じシステムで管理することで、受付業務のオンライン化を進め、事務スタッフの負担を軽減する構成を考えやすいのも特徴の一つです。
PayPayを「すぐに使えるQR決済」として補助的に活用(内科・総合の例)
PayPayは、オンライン診療の支払いと相性が良いサービスです。ビデオ通話などで診察を行った後、画面越しにQRコードを提示し、その場で患者さんに支払いを完了してもらうという公式のフローが整備されています。これにより、後日の銀行振り込みを待ったり、未収金が発生したりするリスクを減らすことができます。
また、院内での対面会計においても、受付カウンターに専用のQRコードを印刷したPOPを置くだけで始められる「ユーザースキャン方式」という手軽な導入方法があります。実際に、各地のクリニックでこの方式を採用し、少額の支払いや、現金を持ち合わせていない患者さんへの選択肢として活用されている例が見られます。
住み分けの考え方:最短で失敗を避けるための組み合わせ
複数のサービスを闇雲に導入するのではなく、クリニックの主な目的や患者さんの層に合わせて、中心となるサービスとそれを補うサービスを組み合わせるのが、無理のない導入の進め方です。
クリニックのタイプ別・具体的なシナリオ
ご自身のクリニックの診療科や患者さんの特徴に合わせて、さらに具体的な導入シナリオを考えてみましょう。
- 一般内科(再診の患者さんが多く、少額決済が中心の場合)
- Squareターミナルで基本的な会計を行い、PayPayをユーザースキャン方式で追加する組み合わせが考えられます。インフルエンザの予防接種時期など、一時的に会計が混み合う時間帯でも、支払方法が複数あることで患者さんの流れを分散させ、窓口での待ち時間を減らす効果が期待できます。
- 皮膚科・耳鼻咽喉科(駅の近くにあり、交通系ICカードの利用者が多い、あるいは学生さんが多い場合)
- Airペイを導入し、交通系ICカードや各種QR決済を幅広くカバーするのが良いでしょう。「いつも使っているSuicaで支払えますか?」といったニーズにしっかりと応えることで、患者さんの満足度向上につながります。
- 自由診療を中心に行うクリニック(美容医療を除く、自費の施術が中心の場合)
- 比較的高額な支払いが多くなるため、クレジットカード決済が中心となります。この場合、SquareまたはSTORES決済が主な選択肢になります。特に回数券の販売や物品の販売も行っている場合は、STORESのレジ機能や予約機能と一体化させることで、在庫管理や顧客管理もスムーズになる可能性があります。(美容クリニックはSTORESの特別プラン対象外となる場合が多いため、ご注意ください)。
- オンライン診療や電話再診を併用している場合
- PayPayのオンライン診療向け決済フローの活用が非常に便利です。ビデオ通話の画面にQRコードを表示するだけで支払いが完了するため、患者さんにとっては来院の手間が省け、クリニック側にとっては未収金のリスクを低減できます。
運用面での安心材料:よくあるご質問とその答え
導入を検討する際に、多くの方が抱かれる疑問点についても触れておきます。
- 決済手数料は患者さんに負担してもらうことはできますか?
- 海外の事例を見ると、決済手数料は医療機関が負担する運営経費の一部として扱うのが一般的である、という調査結果があります。日本国内においても、会計の透明性を保つ観点から、手数料を上乗せするのではなく、院内の掲示物では「利用可能な決済方法の一覧」をお知らせするに留めるのが穏当な対応と言えるでしょう。
- 高機能な自動精算機と、どちらが良いのでしょうか?
- 自動精算機は非常に便利ですが、導入費用や毎月の保守費用が高額になる傾向があり、小規模なクリニックでは投資に見合う効果が得られにくいという指摘もあります。まずは手軽に始められるキャッシュレス決済を導入し、オンライン予約システムなどと組み合わせて受付から会計までの流れを最適化することで、会計での滞留を減らすのが現実的な第一歩かもしれません。
- 導入後、患者さんの待ち時間は本当に短くなりますか?
- 例えばSquareのウェブサイトでは、「クリニックの自動精算・セルフ精算」といったテーマで、キャッシュレス決済を導入することが受付スタッフの負担軽減や患者さんの待ち時間短縮にどのようにつながるか、具体的な設計例が示されています。現金の受け渡しや数え間違いの確認といった作業がなくなるだけでも、会計一人あたりにかかる時間は確実に短縮されます。
導入のアプローチ:段階的に、無理なく進める
一度に全てのサービスを導入しようとすると、スタッフの負担が大きくなってしまうかもしれません。以下の様なステップで、段階的に進めていくのがおすすめです。
- まずは「1台で完結する」決済方法で、現金への依存度を下げる
- 例えばSquareターミナルを1台設置し、日常の会計の大部分をキャッシュレス化することから始めます。これにより、日々の現金の締め作業がどれくらい楽になるか、入金サイクルが自院の経営にどう影響するか、といった点を実感できるでしょう。
- 地域や患者さんのニーズに合わせて「よく使われる決済」の穴を埋める
- 運用に慣れてきたら、患者さんから「交通系ICは使えないの?」といった声が多ければAirペイの追加を検討したり、もし自院が対象業種でカード手数料をさらに下げたい場合はSTORESのプランを検討したりと、状況に応じた次の一手を考えます。
- オンライン診療など、遠隔での決済にも対応する
- 最後に、PayPayのオンライン診療用QRコードなどを活用し、来院しない患者さんの未収金を減らしたり、銀行振込の確認といった手間を削減したりします。
ここまでの段階が実現できると、クリニックでの会計体験は、かなり「現金に縛られない」状態になっているはずです。そして、職員が会計対応に費やしていた時間が少しでも浮けば、その時間を患者さんへの丁寧な案内に使ったり、あるいは採用活動や院内研修、広報活動といった、より付加価値の高い業務に充てることができるようになります。
まとめ:院内の「会計体験」の改善から、採用の競争力へ
キャッシュレス化は、単に会計を便利にするだけの話にとどまりません。受付の混雑が緩和され、日々の締め作業が楽になることで、残業時間が減るかもしれません。それは、看護師や医療事務のスタッフにとって、まぎれもなく「働きやすい職場」であることの一つの証になります。求人票を出す際に、「各種キャッシュレス決済に対応済みで、会計もスムーズです」「オンライン診療の支払いも簡単に行える仕組みがあります」といった、患者さん目線での利点を書き添えることができれば、それは応募を考えている方への静かなアピールにもなります。
そして、会計まわりの業務効率化の先に、採用やシフトの設計といった、より根本的な現場の負担軽減まで踏み込んで考えたいときには、求人募集からお試し勤務、労務管理までをまとめて進められるような仕組みを持つことが近道になります。特に、看護師の登録者層が厚く、短期の「お試し勤務」を通じて入職後のミスマッチを減らせるクーラのようなサービスは、会計業務の効率化という取り組みと非常に相性の良い次の一手になり得ます。まずは情報収集だけでも、お気軽にご覧いただければ幸いです。
→ クーラのご案内: https://business.cu-ra.net/
クーラのような採用サービスを検討するタイミングは、受付業務の改善や残業時間の削減といった「働きやすさ向上」の取り組みと、同じ流れの中で進めるのが効果的です。会計の待ち時間が短縮された直後などは、応募者や既存の職員に対して、自院が働きやすい環境づくりに真剣に取り組んでいるというメッセージが伝わりやすく、採用の案内もより心に届きやすくなるからです。看護師募集の立ち上げ方や、「お試し勤務」の具体的な進め方など、ご興味がありましたら、いつでもご相談いただければと思います。
→ クーラの詳細はこちら: https://business.cu-ra.net/
(本記事は、各社の一般公開情報および医療機関の導入事例に関するウェブページを基に構成しています。個別の最新の条件や手数料、入金スケジュールにつきましては、導入をご検討される前に、必ず各サービスの公式ページで直接ご確認くださいますようお願い申し上げます。)