外来が混み合った日の診察後、机の上に残された手書きのメモの山を見て、ため息をついた経験はないでしょうか。あるいは、患者さんの顔よりも、電子カルテの画面を見ている時間の方が長くなっていることに、もどかしさを感じてはいないでしょうか。私がさまざまな医療機関の先生方やスタッフの皆さまとお話しする中で感じるのは、「キーボードを打つ時間を減らすことが、患者さんと向き合う時間を増やす」という、非常にシンプルでありながら、日々の診療の質を大きく左右する事実です。

本稿では、外来での記録業務、特にメモやカルテの下書き作成の時間を短縮するための選択肢として、よく名前が挙がる3つの音声入力ツール、AmiVoice、Notta、Whisperについて、それぞれの特徴や、医療機関の規模、運用の実情に合わせた使い分けを、できる限り具体的な事例を交えながら整理していきます。先に結論をお伝えすると、いずれのツールも全てを完璧にこなす万能選手というわけではありません。しかし、それぞれの得意なこと、不得意なことを理解し、ご自身のクリニックに合ったものから、適切な順序で導入を進めることで、驚くほど記録業務の負担を軽くすることが可能です。

この記事が、日々の業務に追われる先生方やスタッフの皆さまにとって、業務効率化の具体的なヒントとなり、それによって生まれた時間や心のゆとりを、より良い医療の提供や、働きやすい職場環境づくりへと繋げる一助となれば幸いです。業務が効率化されれば、スタッフの負担が減り、定着率の向上にも繋がります。その先のステップとして、人材の採用や定着といった課題に取り組む際には、看護師の登録数が多く、短期間の勤務からミスマッチを防ぎながら採用できる「クーラ」のようなサービスも視野に入ってくるかもしれません。こうしたサービスの活用も念頭に置きながら、まずは日々の記録業務から見直してみてはいかがでしょうか。

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なぜ「外来メモの時短」がこれほど効果的なのか

日々の業務の中で、「記録作業」は診療と切っても切り離せない重要な要素です。しかし、その作業が負担となり、本来最も大切にすべき時間を圧迫しているケースは少なくありません。音声入力を活用してメモ作成の時間を短縮することは、単に作業が一つ減る以上の、多面的な良い影響をクリニックにもたらす可能性があります。

患者さんと向き合う時間が増え、視線が自然と上がる

多くの先生方が感じていることかもしれませんが、診察中に電子カルテへ入力する際、どうしても視線はキーボードとモニターに集中しがちです。患者さんが何かを訴えている間も、懸命にキーボードを叩いていると、相手の表情の細かな変化や、言葉には出さない不安のサインを見逃してしまうかもしれません。音声入力を使えば、患者さんと話しながら、その内容をリアルタイムに近い形でテキスト化できます。これにより、物理的に視線が上がり、しっかりと患者さんの顔を見て対話する時間が増えます。これは、患者さんとの信頼関係を築く上で、非常に大切なことではないでしょうか。

診察後の残業の原因となる“まとめ書き”が減る

「とりあえず要点だけメモしておいて、あとでまとめてカルテを書こう」。忙しい外来では、そうせざるを得ない場面も多いでしょう。しかし、その「あとで」の作業が積み重なり、結果として診察時間後の残業に繋がっているのが実情です。音声入力の仕組みを導入すると、診察中にカルテの下書きの大部分が完成している状態を作れます。診察が終わった時点での記録作業が、テキストの簡単な手直しや整理だけで済むようになれば、心理的な負担が軽くなるだけでなく、物理的な残業時間も着実に短くなっていきます。

院内での情報共有がスムーズになる

音声で記録を残し、それをテキスト化して要約するという流れが定着すると、院内での情報共有の質とスピードが向上します。例えば、医師が診察内容を音声で記録し、AIがそれを要約したテキストを生成。そのテキストをベースに、看護師が申し送りの準備をしたり、事務スタッフが紹介状の下書きを作成したりといった連携が可能になります。言葉で伝えると抜け漏れが起きがちな情報も、テキストとして残ることで正確性が増し、チーム全体での医療の質向上に貢献します。実際に、訪問診療の現場では「スマートフォン一台と音声入力があれば、現場の記録がほぼ完結する」という声も聞かれます。移動中やベッドサイドなど、手を止めてキーボードを打つことが難しい環境でも記録を残せるという利点は、外来診療においても大いに参考になるはずです。

3つの選択肢:AmiVoice、Notta、Whisperの特性と選び方

音声入力ツールと一言で言っても、その特徴はさまざまです。ここでは、医療現場でよく比較検討される3つのツールについて、それぞれの強みや、どのような現場に向いているのかを詳しく見ていきます。ご自身のクリニックの状況と照らし合わせながら、最適な選択肢を考える参考にしてください。

AmiVoice:医療に特化した高精度な音声認識

どのようなツール?
株式会社アドバンスト・メディアが提供する、医療分野で長年の実績を持つ音声認識サービスです。最大の特徴は、診療科ごとに最適化された膨大な専門用語の辞書を搭載している点で、高い認識精度を誇ります。電子カルテとの連携を前提に開発されている製品が多く、院内での本格的な運用に適しています。
どのような現場に向いている?
専門的な医療用語を頻繁に使う診療科(例:循環器内科、整形外科、放射線科など)や、長文の所見を作成する機会が多い外来、在宅医療の現場で特に力を発揮します。辞書機能は使うほどに個々の医師の話し方やよく使う言葉を学習し、認識精度が向上していく特徴があります。
導入時の留意点
高機能な分、一般的に初期設定や院内の運用ルール作りが大切になります。周囲の雑音を拾いにくく、クリアな音声を拾える専用のマイクの準備が推奨されることが多いです。また、オンプレミス版(院内サーバーで運用)かクラウド版かなど、自院のセキュリティ方針に合わせた製品選定が求められます。
費用感の目安
導入形態(オンプレミスかクラウドか)やライセンス数によって費用は大きく異なります。一般的に初期費用と月額、あるいは年額の利用料が発生します。詳細な見積もりは、提供元や販売代理店への問い合わせが必要です。

Notta:会議から診察記録まで、汎用性とAI要約が魅力

どのようなツール?
汎用的なAI文字起こしサービスで、医療現場に限らず幅広いビジネスシーンで利用されています。会話の録音、複数の話者を自動で分離する機能、そして録音内容をAIが自動で要約してくれる機能が特に評価されています。
どのような現場に向いている?
医師の診察メモだけでなく、多職種カンファレンスの議事録作成、患者さんへのインフォームド・コンセント(説明と同意)の場面の記録、新人スタッフ教育の面談記録など、院内で発生する様々な「会話」を効率的にテキスト化・要約したい場合に適しています。まずは手軽に音声入力の効果を試してみたいという場合にも始めやすいツールです。
導入時の留意点
汎用ツールであるため、医療専門用語の認識精度はAmiVoiceのような特化型ツールに一歩譲る場合があります。そのため、AIが生成したテキストや要約を、最終的に人の目で確認・修正するという運用が基本になります。また、基本はクラウドサービスのため、利用規約やセキュリティポリシーを事前に確認し、院内の情報管理規定と照らし合わせることが重要です。
費用感の目安
個人向けの無料プランから、チームで利用できるビジネスプランまで複数の料金体系が用意されています。月額数千円程度から始められるプランが多く、比較的手軽に導入を検討しやすいのが特徴です。

Whisper:柔軟性とコスト、オフライン運用も可能な選択肢

どのようなツール?
ChatGPTを開発したことで知られるOpenAI社が提供する、非常に高性能なオープンソースの音声認識モデルです。この技術を基にして、様々な開発者が特定の用途向けのツールやアプリケーションを提供しています。技術そのものを指す言葉であり、特定の製品名ではありません。
どのような現場に向いている?
できるだけ費用を抑えて音声入力を試してみたい場合や、セキュリティ上の厳しい要件から、患者さんの音声データを絶対に外部のクラウドサーバーに送信できない、という場合に有力な選択肢となります。院内のコンピューターの中だけで処理を完結させる「ローカル環境(オフライン)での運用」を構築することが可能です。
導入時の留意点
オープンソースの技術がベースになっているため、導入や設定にはある程度のITに関する知識が必要になる場合があります。また、専門用語の誤認識や、文脈にない言葉を補って生成してしまう「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象への注意も必要だと指摘されており、人の目による最終確認は不可欠です。
費用感の目安
モデル自体は無料で公開されていますが、それを簡単・安全に使えるようにしたツールを利用するのが一般的です。その場合、ツールの購入費用(買い切り型)や、API(クラウド経由で機能を利用する仕組み)の利用料金が発生します。ローカルで運用するツールの中には、数万円程度の買い切りで提供されているものもあります。

AmiVoice:医療特化・語彙力に定評のある選択肢

AmiVoiceは、医療現場での音声入力といえばまず名前が挙がるほど、豊富な導入実績を持っています。強みは、なんといっても医療専門用語に対する認識精度の高さです。電子カルテ用途での事例が多数公開されており、小規模なクリニックから地域の基幹病院、在宅医療の現場まで幅広く活用されています。

  • 沖縄県の名嘉村クリニックの事例
    • こちらのクリニックでは、AmiVoiceの導入により、カルテ入力のための残業がほとんどなくなったと報告されています。以前は単語のメモから文章を組み立てていたのが、診察中に話した内容がそのまま文章として残るようになり、記録の質も向上したとのことです。また、難聴の患者さんに対して、音声入力でテキスト化された内容を画面で見せながらコミュニケーションを取るという、ユニークで温かい活用法も紹介されています。
  • 東京都清瀬市の平野クリニック(在宅医療部)の事例
    • 在宅医療の現場では、訪問先や移動中の車内など、キーボード入力が難しい環境での記録が課題となります。こちらのクリニックでは、ノートパソコンと手持ちのスピーチマイクを組み合わせることで、場所を選ばずにスピーディーな文書作成を実現しています。訪問を終えた後のカルテ所見や紹介状の下書き作成が効率化され、今や「必要不可欠な道具」として現場に定着しているそうです。

このように、医療用語が頻繁に出てくる診療科や、在宅医療のように長文の所見を書く場面が多いクリニックにとって、AmiVoiceは非常に心強いツールと言えるでしょう。ただし、その性能を最大限に引き出すためには、専用マイクの選定や、院内での運用ルールの整備といった、最初の環境づくりを丁寧に行うことが、日々の精度と速度の安定に繋がります。

Notta:会議・面談も含む周辺業務の効率化に貢献

Nottaは医療専用ではありませんが、その汎用性の高さと、優れたAI要約機能によって、医療現場でも注目されています。医師や看護師、事務スタッフ間の打ち合わせや、患者さんへの説明内容を記録・議事録化する、といった外来診療の「周辺業務」で特に力を発揮します。

  • 医師ユーザーの活用インタビュー
    • ある医師のユーザーインタビューでは、文字起こしの精度に加え、AIによる要約機能が非常に役立つと評価されています。複数の人が参加するカンファレンスでも、3〜4人の話者をかなりの精度で分離してくれるため、誰が何を話したのかが一目で分かり、議事録作成の手間が大幅に削減されたとのことです。
  • 医療現場での活用シーン
    • 具体的には、初診時の問診の下書き作成、インフォームド・コンセントの記録、多職種が連携して行うカンファレンスの要約、新人スタッフへの指導内容の記録など、外来業務の外側まで含めてまとめて効率化したい施設に向いています。
    • 医療専門用語の生の認識精度は、特化型のAmiVoiceに及ばない場面もありますが、会話全体の文脈を理解して要点をまとめる要約機能は非常に強力です。生成された要約を元に、カルテの主要部分を作成し、細かい専門用語は手で修正するという使い方が現実的でしょう。

Whisper:コストと柔軟性、そしてオフラインで使える安心感

Whisperは、OpenAIが開発した音声認識技術で、その精度の高さと、オープンソース(設計図が公開されている)であることが特徴です。この技術を利用することで、外部のサーバーに音声データを送ることなく、院内のコンピューターだけで文字起こしを完結させることが可能です。

  • セキュリティ要件が厳しい現場での選択肢
    • 患者さんの音声は機微な個人情報であり、クラウドサービスへのデータ送信を院内の規定で厳しく制限している医療機関も少なくありません。Whisperをベースにしたローカル(オフライン)で動作するツールは、こうした現場にとって待望の選択肢と言えます。実際に、機密性の高い手術記録の領域などでも、Whisperを採用して認識精度を高める製品が発表されており、医療現場での応用が広がっています。
  • 導入を検討する際のポイント
    • 費用を抑えて音声入力を試したい、あるいは情報管理の観点からクラウドは使えない、といった制約があるクリニックに適しています。ただし、専門用語の誤変換や、事実に基づかない内容を生成してしまう「幻覚(ハルシネーション)」の問題も一部で報告されているため、生成されたテキストは必ず人の目で確認し、修正することを前提とした運用フローを組むことが大切です。

まずは「録音して、使える」を確立することから。小さく始める導入手順

新しいツールを導入する際、最初から完璧な運用を目指すと、かえって現場の負担が増えてしまいがちです。まずは「失敗してもいい」という気持ちで、小さく試しながら、自分たちのクリニックに合ったやり方を見つけていくことが成功の鍵です。

ステップ1:録音環境を整える(マイク・配置・声の大きさ)

音声認識の精度は、入力される音の質に大きく左右されます。高価な機材は必ずしも必要ありませんが、いくつかのポイントを押さえるだけで、認識率は格段に向上します。

  • 静かに録音できる場所を確保する
    • 診察室内であれば、机の端の方など、患者さんの声が必要以上に入りすぎない位置にマイクを置くのが基本です。周囲の話し声や医療機器の動作音など、ノイズが少ない環境が理想です。
  • マイクの選び方と使い方
    • 手持ちタイプのスピーチマイクは、口元に近づけて話せるため、周囲の雑音を拾いにくく、クリアな音声を入力できます。また、手元でオン・オフの操作ができる製品が多く、バイタル測定で席を立つ、処置室へ移動するなど、診察の合間に中断を挟む場面で便利です。在宅医療で院外に出ることが多い場合にも重宝します。
  • 話し方のルールを共有する
    • 導入の初期段階で、スタッフ間で「カルテに残すための話し方」の簡単なルールを決めておくと、後の修正作業が非常に楽になります。「主語を明確にする」「専門用語ははっきりと発音する」といった基本的なことだけでも効果があります。

ステップ2:「下書きはツール、清書は人」の2段階を前提とする

音声入力ツールは、完璧な文章を一発で生成してくれる魔法の杖ではありません。「思考をそのままテキストにする下書きツール」と割り切って使うのが、ストレスなく運用を続けるコツです。

  • 分業体制を検討する
    • 現場で負担が少ない運用方法として、「医師が診察中に話して音声入力で下書きを作成し、その後、看護師や医療クラークが短時間で体裁を整えて清書する」という分業モデルがあります。医師は話すことに集中でき、清書担当者はゼロから文章を打つ必要がないため、双方の負担を軽減できます。
  • テンプレートとの連携は次のステップで
    • 最初からSOAP形式のテンプレートに直接入力しようとしたり、定型文と複雑に連携させようとしたりすると、設定が煩雑になりがちです。まずは自由な形式で入力した下書きを、手作業でテンプレートに貼り付ける、というシンプルな運用から始め、慣れてきたら徐々に自動化を検討するのが近道です。

ステップ3:「要約のたたき台」をツールに任せる

文字起こしされた長いテキストを、要点をおさえた短い文章にまとめるのは、意外と時間のかかる作業です。この「要約」の初稿作成をツールに任せることで、業務をさらに効率化できます。

  • ツールの得意分野を活かす
    • NottaのAI要約機能や話者分離機能は、複数の人が参加する面談や説明、カンファレンスの内容を整理するのに非常に適しています。一方、AmiVoiceは医療用語を正確に認識した上でのテキスト生成が得意です。
  • 両方の良いところを活用する
    • 例えば、診察の会話をNottaで録音・要約して全体の流れを掴み、AmiVoiceで専門的な所見を追記・清書する、といった組み合わせも考えられます。まずはツールの要約機能を試し、それだけで外来メモからカルテ下書き、患者さんへの説明文作成までの一連の流れがどれだけ短くなるかを体感してみてください。

クリニックの規模や特徴に合わせた「はじめの一歩」ガイド

すべてのクリニックに共通する唯一の正解はありません。ここでは、クリニックの規模や診療体制に応じた、具体的な導入の進め方の例をいくつかご紹介します。

まずは「1つの診察室だけ」で試す(小規模クリニックの場合)

院長先生がお一人で診察されているようなクリニックでは、まずご自身の診察室だけで試験的に導入してみるのが良いでしょう。

  • AmiVoiceを試す場合
    • 医療用語を正確に記録したいというニーズが強いなら、AmiVoiceの導入を検討します。まずは主要な診療内容に絞って、辞書登録などを行いながら精度を高めていきます。
  • Nottaを試す場合
    • 診察記録だけでなく、スタッフとの朝礼や申し送り、患者さんへの病状説明など、幅広い場面での効率化を体感したいなら、Nottaから始めるのが手軽です。スマートフォンアプリもあるため、すぐにでも試すことができます。
  • Whisperを試す場合
    • コストをかけずに試したい、あるいは院内のセキュリティポリシーが厳しいという場合には、Whisperをローカル環境で動かすツールを導入し、スモールスタートを切るのが現実的です。

在宅医療と外来を併用している医療法人の場合

外来の診察室が2〜3室あり、加えて在宅医療チームが活動しているような医療法人では、場所や用途に応じたツールの使い分けが効果的です。

  • 診察室と在宅チームでの使い分け
    • 院内の診察室では、電子カルテと連携しやすいAmiVoiceを導入して、正確な所見を効率的に作成します。一方、訪問先や車内で記録を行う在宅チームには、ノートパソコンとスピーチマイクを配布し、同様にAmiVoiceや、あるいは手軽なNottaを利用します。
  • 情報共有に要約機能を活用
    • 在宅チームが訪問先から戻った後の報告会や、多職種が参加するカンファレンスの内容をNottaで録音・要約し、そのテキストを院内の情報共有システムに貼り付けて共有する、といった運用が考えられます。これにより、会議の時間を短縮しつつ、情報の伝達ミスを防ぐことができます。

介護施設や訪問看護ステーションとの連携が多い拠点の場合

地域の介護施設や訪問看護ステーションとの連携が業務の中心となるクリニックでは、現場で交わされる「話し言葉」を、いかにして「共有可能な記録」に変換するかが課題となります。

  • Nottaを情報共有のハブに
    • 訪問看護師やケアマネージャーとの電話でのやり取りや、オンラインでの打ち合わせをNottaで記録し、要約とテキストを関係者間で共有します。誰がいつ、どのような内容を話したかが正確に残るため、「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、スムーズな連携を促進します。
  • Whisperによる内製化も選択肢に
    • 頻繁に記録作業が発生し、クラウドサービスの利用料が負担になる場合は、Whisperベースのローカルツールを導入し、文字起こし作業を院内で完結させる体制を整えることも有効な選択肢となります。

よくあるご質問や不安と、現場での対応策

新しい技術を導入する際には、様々な疑問や不安がつきものです。ここでは、音声入力ツールの導入を検討する際によく挙がる懸念点と、それらに対する現実的な対応策をまとめました。

個人情報の取り扱いや、患者さんの同意はどうすればよいか?

  • 同意の取得方法
    • 診察前に、「診療の効率化と記録の正確性を高めるため、会話内容をテキスト化する目的で録音させていただきます」のように、目的を明確に伝えて同意を得るのが一般的です。院内にその旨を掲示したり、問診票に一筆同意欄を設けたりする方法も考えられます。
  • データの管理
    • 録音データの保存期間や、誰がそのデータにアクセスできるのかといった閲覧権限について、院内の情報管理規程に明記しておくことが重要です。
  • クラウド利用が難しい場合
    • 院内の方針でクラウドサービスの利用が禁止されている場合は、前述のWhisperを活用したローカル環境での運用や、AmiVoiceのオンプレミス版を検討することになります。あるいは、音声データはその場で消去し、テキスト化された記録のみを保存するという運用も一つの方法です。

騒音や方言、マスク越しの声でも正確に認識できるか?

  • 環境と話し方の工夫
    • マイクをできるだけ口元に近づけること、そして主語や述語をはっきりと、少しゆっくりめに話すことを意識するだけで、認識精度は意外なほど向上します。指向性の高いマイク(特定の方向の音だけを拾うマイク)を使用するのも効果的です。
  • 誤変換は要約機能でカバーする
    • 細かな誤変換がいくつかあっても、文章全体としては意味が通じている場合、Nottaのようなツールの要約機能は文脈を理解して正しい要約を生成してくれることがあります。完璧な文字起こしを目指すのではなく、最終的な要点がおさえられていれば良い、と割り切る考え方も大切です。

医療専門用語の精度が心配

  • 特化型ツールの活用と辞書育成
    • やはり医療専門用語の認識精度を最優先するなら、AmiVoiceが最も実績があります。導入後も、うまく認識されなかった単語を辞書に登録していく地道な作業(辞書の育成)を、ルールを決めて少しずつ行うことで、自院に最適化されたシステムへと成長していきます。
  • Whisperの注意点
    • Whisperは非常に高性能ですが、無料かつ柔軟に利用できる反面、専門用語の誤りや、文脈にない言葉を補ってしまう「幻覚」的な誤変換が起こる可能性も指摘されています。利用する際は、必ず人の目での最終確認を運用フローに組み込むことが不可欠です。

まとめ:小さな一歩から始めて、外来の時間を患者さんへ取り戻す

外来メモ作成の時間を短縮することは、単なる業務効率化にとどまらず、診療の質そのものや、スタッフの働きやすさにも直結する重要な取り組みです。

  • AmiVoiceで、医療専門用語の正確な認識を軸に、質の高いカルテ所見を効率的に作成する。
  • Nottaで、診察だけでなく、会議や申し送りといった外来周辺業務の要約を一気に省力化する。
  • Whisperで、費用や情報管理の制約といった導入の壁を乗り越えるための選択肢を持つ。

この3つの選択肢を、ご自身のクリニックの状況に合わせて使い分けることで、「忙しくて記録が追いつかない」という日々のストレスは、目に見えて減っていくはずです。

そして、業務効率化によって生まれた時間と心のゆとりは、クリニックにとって最も大切な財産です。そのゆとりを、新しいスタッフの採用や、今いるスタッフが長く安心して働ける環境づくりに振り向けてみてはいかがでしょうか。例えば、看護師の採用において、短期のお試し勤務から始めることで、お互いの相性を確かめ、ミスマッチのリスクを減らしながら、必要な人材を迅速に確保する手立てもあります。日々の業務改善の先に、より良いチーム作りを見据える。その第一歩として、今日からできることから始めてみませんか。

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補足:さらに安心して導入を進めるためのヒント

  • 「1診察室・1週間だけ」の試験導入
    • まずは特定の曜日と担当医師を決めて、録音から要約、そしてカルテへの清書までの一連の流れを、チームで実際に試してみましょう。うまくいった点、改善が必要な点を洗い出す良い機会になります。
  • テンプレートは「空欄を埋めるだけ」の状態に
    • SOAP形式や説明同意書などの定型的な文書は、音声入力で作成した要約テキストを、最小限の空欄にコピー&ペーストするだけで完成するような、シンプルなひな形を用意しておくとスムーズです。
  • 患者さんへの説明に「テキストの共有」を
    • 冒頭で紹介した名嘉村クリニックの事例のように、音声入力でテキスト化された内容を、患者さんと一緒に画面で見ながら確認することで、説明の正確性が増し、伝達ミスを防ぐことにも繋がります。

外来のメモが軽くなると、患者さんの待ち時間やスタッフの残業が減るだけでなく、クリニックの採用力も変わる可能性があります。「私たちの職場では、記録は話して作ります」「診察後の記録作業を持ち帰ることはありません」。そんな働きやすさを具体的に示せることは、新しい人材を惹きつける大きな魅力となるでしょう。職場環境をより良くするための一つの手段として、ぜひ音声入力の活用を検討してみてください。

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参考にした公開情報(一部抜粋)

本記事の作成にあたり、以下の公開情報を参考にいたしました。

  • AmiVoice 医療向け導入事例(株式会社アドバンスト・メディア公開情報)
  • Notta 医療現場向け活用コンテンツ及び医師ユーザー事例(Notta株式会社公開情報)
  • 訪問診療における音声入力活用事例(movacal.net掲載情報)
  • Whisperの医療現場での適用に関するプレスリリース及び技術解説記事
  • その他、各ツールの公式サイト及び関連する技術情報