外来や訪問、病棟の慌ただしい時間の中で、パソコンの画面と向き合い、黙々とキーボードを打ち続ける。そんな光景が、多くの医療現場で日常になっているかもしれません。電子カルテの入力に追われる時間は、本来であれば患者さんとの対話や、スタッフの教育、新しい仲間を迎えるための採用活動などに使えたはずの時間です。こうした状況を少しでも和らげる方法として、今、「音声入力」と「AIによる要約」の技術に静かな注目が集まっています。

これは、医師や看護師が話した言葉を自動で文字に変換し、さらにはSOAP形式などのカルテの形に整えてくれる仕組みです。日々の記録業務の負担を軽くし、本来の専門的な業務に集中できる環境づくりを後押ししてくれる技術と言えるでしょう。

しかし、便利な技術だからこそ、新しい疑問や不安も生まれます。「AIが作った文章の、責任の所在はどうなるのだろう?」という声は、実際に多くの管理者の方から聞かれます。この記事では、実際の医療現場での活用例を参考にしながら、音声入力とAI要約を導入する際のコツや、皆さんが最も気にされるであろう「記載責任」を明確にするための運用方法について、できるだけ専門用語を避け、分かりやすく整理してみたいと思います。

日々の業務に追われ、採用やスタッフの定着にまでなかなか手が回らないと感じている管理者の方々にとって、何か一つでもヒントが見つかれば幸いです。

(もし、記録業務の改善と並行して、急な欠員補充や採用活動そのものに課題を感じている場合は、看護師の迅速な募集とミスマッチの少ない「お試し勤務」の仕組みを提供するクーラのようなサービスも、ひとつの選択肢として考えられます。ご興味があれば、施設の方向けの情報を一度ご覧ください。:https://business.cu-ra.net/

なぜ今、記録業務の負担軽減が課題になるのか

多くのクリニックや病院、訪問看護ステーション、介護施設で、記録業務が大きな負担になっている背景には、共通した課題が見られます。これらは一つひとつが小さな問題に見えても、積み重なることで、組織全体の活力を少しずつ削いでいくことがあります。

  • キーボード入力に時間がかかり、診療やケアの流れが中断されてしまう
  • 患者さんの顔を見て話す時間よりも、パソコン画面を見ている時間の方が長くなってしまう
  • 忙しさのあまり記録を後回しにし、夕方や業務終了後にまとめて入力することになる
  • 時間が経ってから記録するため、記憶が曖昧になり、記載のミスや抜け漏れが起きやすくなる
  • 記録業務が時間外労働の主な原因となり、スタッフの疲弊や離職につながってしまう
  • 日々の業務に追われ、新人教育やスタッフとの面談、採用活動といった、組織の未来をつくるための時間が確保できない

こうした悪循環の中で、音声入力は「手を使わずに、話すだけで記録が進む」という点で、業務の流れを止めない大きな助けとなります。そしてAI要C約は、その文字起こしされたテキストを、カルテで求められる形式に「下書き」として整えてくれる、いわば補助輪のような役割を果たします。

大切なのは、AIはあくまで「下書き」や「清書」を手伝ってくれるアシスタントだということです。最終的にその内容を確認し、専門家としての判断を加えて署名するのは、これまでと変わらず、医師や看護師といった国家資格を持つ専門職の皆さんです。この役割分担を曖昧にせず、組織のルールとして明確にすることが、新しい技術を安心して活用するための第一歩になります。

小さな組織でもできる?音声入力とAI要約の活用事例

「最新技術は大病院のもの」というイメージがあるかもしれませんが、実際には小規模なクリニックや訪問看護ステーション、介護施設での導入事例が数多く報告されています。ここでは、インターネットで公開されている具体的な取り組みをいくつかご紹介します。

クリニックでの事例:入力時間の短縮と診療の質の向上

ある内科系のクリニックでは、電子カルテへの所見入力を音声入力に切り替える取り組みを行いました。医師が診察をしながら話した内容が、ほぼリアルタイムでカルテに反映される仕組みです。導入した医療向け音声入力システム(例:AmiVoice Ex7など)によって、これまでキーボードを打っていた時間が大幅に削減されました。その結果、「カルテ入力の時間が短くなっただけでなく、時間に余裕ができた分、より丁寧な所見を書けるようになった」「患者さんをお待たせする時間も短縮できた」といった声が上がっているそうです。診察の流れを止めずに記録が完成していくため、医師も患者さんも、目の前の対話に集中しやすくなるという効果も報告されています。

訪問看護での事例:移動時間を有効活用し、残業を半分に

訪問看護やリハビリの現場では、1日に何件も利用者のご自宅を回り、事業所に戻ってから記録を作成するケースが多く、これが残業の大きな原因となっていました。ある訪問看護リハビリステーションでは、スタッフが持つスマートフォンに音声入力アプリを導入し、訪問先からの移動中や、次の訪問までの少しの空き時間に、音声で記録を登録できるようにしました。その記録は直接、事業所のシステムに送られます。この仕組みを日々の看護記録だけでなく、手間のかかる計画書や報告書の作成にも広げた結果、スタッフと管理者の平均残業時間が約半分にまで減少したという事例が、優れた取り組みとして表彰されています(「kango-award.jp」で紹介された事例など)。現場で働く方々の負担を直接的に軽減した好例と言えるでしょう。

介護施設での事例:誰でも簡単に使える仕組みで、情報共有をスムーズに

特別養護老人ホームのような介護施設では、職員の年齢層も幅広く、IT機器の操作に不慣れな方も少なくありません。ある施設では、タブレット端末での記録と、操作を補助する音声入力ツール(例:NDソフトウェア社の製品など)を組み合わせることで、「経験の浅い新人職員でも、年配のベテラン職員でも、誰でも簡単に入力できる」体制を整えました。これにより、記録業務そのものの時間が短縮されただけでなく、職員間でリアルタイムに情報が共有されるようになり、ケアの質の向上にもつながったと報告されています。特定の誰かに依存するのではなく、組織全体で安定して運用できる仕組みを作ったことが、成功のポイントです。

小規模クリニックでのAI要約活用事例:スタッフ退職後の体制を維持

AIが医師と患者の会話を録音し、それを基にカルテの原稿を自動で作成するサービスも登場しています。例えば、地域に根差した眼科クリニックや、在宅医療を中心に行うクリニックで、こうしたAI要C約サービス(例:medimoなど)の導入事例が公開されています。あるクリニックでは、長年カルテ入力を手伝ってくれていた医療クラーク(医師事務作業補助者)が退職してしまった後、医師一人で診察とカルテ入力を両立させるために導入を決定しました。また、訪問診療を行うクリニックでは、移動中の車内でAIが作成したカルテ原稿を医師がスマートフォンで確認・修正し、事業所に戻る頃には記録がほぼ完成している、という効率的な使い方がされています。少ない人数で運営している小規模な施設でも、工夫次第で十分に活用できることがわかります。

補足:対話の質を高めるという視点

AIによる音声入力や要約は、単に記録作成の時間を短縮するだけではありません。多くの医療者向け情報サイト(例:目利き医ノ助など)では、キーボード入力から解放されることで、医師や看護師が患者さんの目を見て、しっかりと向き合いながら対話できる時間が増えると指摘されています。手元の作業が減ることで、患者さんの表情や声のトーンといった、言葉以外の情報にも気づきやすくなり、結果として診療やケアの満足度向上にもつながる可能性がある、という考え方です。

メリットと、知っておきたい限界

便利な技術ですが、万能ではありません。導入を検討する際には、その長所と、現時点での限界や注意点を客観的に理解しておくことが大切です。

音声入力とAI要約の主なメリット

  • タイピング時間の削減:話すスピードで記録が進むため、キーボード入力にかかる時間を大幅に減らせます。特に、外来や訪問のように、次々と対応が必要な場面で業務の流れがスムーズになります。
  • 記録の「その場完結」:診察やケアが終わった直後、あるいはその最中に記録がほぼ完成するため、後でまとめて入力する「思い出し記録」を減らすことができます。
  • 定型フォーマットへの自動整形:SOAP形式など、決まった形にAIが自動で整理してくれるため、記載の抜け漏れに気づきやすくなります。
  • 対話のニュアンスが残りやすい:音声で記録すると、患者さんが話した言葉の細かな言い回しや表現(ナラティブ)がそのまま残りやすく、後から振り返る際に、より豊かな情報として役立つことがあります。

限界と注意しておきたい点

  • 言葉の誤認識:医療特有の専門用語や略語、新しい薬剤名などは、AIが正確に認識できない場合があります。また、周りの環境音(空調の音、他のスタッフの声など)や、複数の人が同時に話す状況では、認識エラーが起きやすくなります。
  • 文脈の誤解:会話の中の雑談や、確定していない推論などが混じると、AIがどこを要点とすべきか判断に迷い、要約の軸がぶれてしまうことがあります。
  • 個人情報・機微情報の取り扱い:音声データやテキストデータは、厳重に管理が必要な個人情報です。使用する端末のセキュリティ、通信経路の暗号化、データの保管場所や期間など、組織として明確なルールを定め、遵守することが不可欠です。
  • そして最も重要な点として、「記載の最終責任」は、AIではなく、それを利用する人間にあるということを忘れてはなりません。

「記載責任」を曖昧にしないための5つのルール

AIが作成したカルテや看護記録の下書きを、どのように扱えばよいのか。この点が、導入における最大の懸念点かもしれません。安心して活用するためには、責任の所在を明確にするための運用ルールを、導入前に設計しておくことが極めて重要です。以下に、そのための具体的な5つのポイントをまとめました。

AI時代の記録作成と責任のフロー

1
音声入力・AI要約
医師や看護師が会話や所見を音声で入力。AIが自動で文字起こしと要約(下書き)を作成します。この時点では、あくまで「素材」です。
2
人の目による校正・修正
AIが生成したテキストを、記載者本人または補助者が確認。誤認識や不適切な表現、情報の抜け漏れを修正・追記します。
3
最終確認と確定
記載責任者(医師・看護師など)が、修正された内容を最終的に確認します。専門的な判断に基づき、内容に間違いがないことを承認します。
4
電子署名
最終確認が完了したら、記載責任者のアカウントで電子署名を行います。これにより、その記録の責任の所在が法的に確定します。
  1. 最終責任者を明確にする診療録や看護記録といった公的な記録の最終的な内容に責任を持つ人(医師、看護師、管理者など)を、職種ごとにルールとして文章で定めます。そして、業務手順書などの中で、「AIはあくまで下書きの作成者であり、最終的な判断と責任は人間が負う」ということを、誰が読んでもわかるように記載しておくことが重要です。
  2. 署名・承認のフローを固定する「音声入力 → 文字起こし → AI要約 → 人による校正・修正 → 責任者による最終確認 → 電子署名による確定」という一連の流れを、業務の標準的な手順として定めます。特に、最後の「確定(署名)」の操作は、必ず記載責任者本人のアカウント(IDとパスワード)でのみ行えるように、システムの権限を設定することが不可欠です。
  3. 監査ログと変更履歴を保存するシステム上で、「誰が、いつ、どの部分を修正したか」という記録(監査ログ)が自動的に保存される仕組みは、説明責任を果たす上で非常に重要です。AIが自動生成したテキストには「AI生成」といったラベルが自動で付与され、人間が修正した前後の差分が履歴として残るシステムが望ましいです。これにより、万が一、後から記録内容の妥当性を問われた際にも、客観的な証拠として提示できます。
  4. 定型的な表現と使用を避けるべき言葉のリストを用意する診療科ごとや、よくある症例ごとに、「推奨される表現」のテンプレートをいくつか用意しておくと、AIの要約精度も上がり、記録の標準化にもつながります。逆に、「~と思われる」といった曖昧な推測を、「~である」と断定するような表現にAIが誤って変換しないよう、注意が必要です。また、倫理的、あるいは差別につながる可能性のある不適切な表現をAIが使わないように、人の目で最終チェックすることは最低限のルールとすべきです。
  5. 音声入力の際の、ちょっとした現場ルールを決めるAIの誤認識を減らすためには、使い方の工夫も効果的です。例えば、「文章は短く区切って話す」「医薬品名や患者さんの氏名といった固有名詞は、少しゆっくり、はっきりと復唱する」「検査値などの数字を読み上げる際は、前後に少し間を置く」「本題と関係のない雑談は、録音を一度止めるか、『ここから雑談』のように区切りを入れる」といった簡単なルールをチームで共有するだけで、文字起こしの精度は大きく向上します。

まずは今日から試せる、小さな始め方

新しい仕組みを導入する際は、最初から完璧を目指すのではなく、まずは最小限の構成で試してみて、その効果を実感することが成功への近道です。

  • 特別な端末は不要、今あるスマートフォンからまずは、普段使っているスマートフォンやタブレットの内蔵マイクで試してみましょう。もし、より精度を上げたい場合は、外来の診察室には固定式のマイクを、訪問スタッフには襟元に付けられる小さなクリップマイクを用意するなど、少しずつ環境を整えていくのが現実的です。
  • 環境音への対策診察室であれば、音声入力を始める前にドアを閉め、可能であれば空調の風量を少し弱めるだけでも、ノイズが減り認識精度が上がります。訪問先では、録音を開始する前に「〇〇様宅での、バイタルサインの記録」のように、場所と目的を最初に宣言することで、AIが文脈を理解しやすくなり、より的確な要約が期待できます。
  • フォーマットを決めてから話すAIは指示に沿って情報を整理するのが得意です。例えば、SOAP形式で記録したい場合、実際に話す前に「サブジェクト…」「オブジェクト…」と見出しを先に読み上げてから内容を話すと、AIがその見出しに沿って文章をきれいに整理してくれます。
  • 効果の大きい一部分から試すいきなり全ての記録を音声入力に切り替えるのは大変です。まずは、普段から作成に時間がかかっている「長文の所見」や、電話で受けた指示の記録、あるいは「退院時サマリー」の作成など、時短効果が大きいと思われる業務に絞って試してみてはいかがでしょうか。
  • 医師事務作業補助者(クラーク)との連携もし医師事務作業補助者の方がいる施設であれば、AIが作成した要約の一次的な校正(明らかな誤字脱字の修正など)までを補助者の方にお願いし、医師や看護師は、その後の医学的・看護的な内容の最終確認と確定に専念するという役割分担も、非常に効率的です。
  • 個人情報の安全管理ルールを忘れずにスマートフォンなどを業務で利用する場合は、端末の画面ロック、遠隔でデータを消去できる仕組み(MDM)、安全な通信経路(VPN)の確保、院外への持ち出しに関する規定、データをお使いの端末に長期間保存しないルールなどを、就業規則や業務手順書に反映させることが不可欠です。

導入の初期段階は、新しい操作に慣れるまで、一時的に業務の負担が増えることも考えられます。もし、スタッフの手が足りない時期に、こうした新しい取り組みを始めるのであれば、短期的な応援スタッフとして「お試し勤務」の看護師に来てもらうなど、一時的にマンパワーを補う方法もあります。看護師の迅速な募集とミスマッチのリスクを抑える方法については、クーラの施設向けページもご参照ください:https://business.cu-ra.net/

導入でつまずきがちな点と、その回避策

実際に導入してみると、思ったようにいかない場面も出てきます。ここでは、よくある「つまずきポイント」とその対策を、Q&A形式でご紹介します。

思ったより誤認識が多くて使えない…
💡回避策
  • 語尾まで、はっきりと明瞭に話すことを意識します。
  • 数字や固有名詞を話すときは、前後に一拍置くと認識されやすくなります。
  • 「薬剤名(商品名)の〇〇、一般名では△△」のように、複数の言い方を続けて話すとAIが補完しやすくなります。
  • マイクと口の距離を近づける、指向性のあるマイクを使うといった物理的な工夫も有効です。
AIの要約が長すぎて、結局手直しが大変…
💡回避策
  • 話す前に「今日の要点は3つです。一つ目は主訴、二つ目は評価…」のように、AIに構成を指示してから話し始めます。
  • システムに「〇〇文字以内で要約」「要点を3つに絞る」といった設定があれば、積極的に活用します。
  • 冗長になりがちな部分は、テンプレートを活用し、変更点だけを音声入力で追記する形も効率的です。
診療科によって、向き不向きがあるのでは?
💡考え方
  • 確かに、特性はあります。耳鼻科や眼科など、診療の流れが速く、所見のパターンがある程度決まっている科では、定型文の呼び出しと短い追記を組み合わせる使い方が合っています。
  • 一方で、精神科や在宅医療、緩和ケアなど、患者さんとの対話(ナラティブ)そのものが重要な科では、長文の会話をそのまま記録し、後から要約する使い方が適しています。
音声で話すと、つい余計なことまで記録してしまう…
💡回避策
  • これも「要約が長くなる」問題と似ています。あらかじめ用意したテンプレートの文字数を目安にする、という意識が有効です。
  • 「記録に残すべき事実」と「個人的な感想や推測」を、意識して分けて話す訓練も、少しずつ効果が出てきます。
  • AIが作成した下書きを修正する際に、「これは記録として残す必要がないな」と判断して削除する作業も、重要な業務の一つと位置づけます。

費用の考え方と、金額以上の効果について

音声入力やAI要約サービスの料金は、提供する会社や機能によって様々ですが、一般に公開されている情報を参考にすると、月額数千円から数万円/ID(利用者一人あたり)というのが一つの目安になるようです。

この金額をどう捉えるか。一つの考え方として、記録業務にかかる時間外労働の削減効果と比較してみる方法があります。例えば、一人のスタッフが記録のために毎日30分の残業をしていると仮定します。もし音声入力の導入で、1件あたり数分の時間短縮が実現できれば、月に数時間から十数時間の残業を減らせる可能性があります。その分の残業代とサービスの利用料を比較すれば、多くの場合、早い段階で「サービスを利用した方がコストが安い」という状態になることが考えられます。

さらに、金額には直接換算しにくい、しかし非常に重要な効果も期待できます。記録業務の後回しが減ることによる、ヒヤリハットやインシデントの低減。時間に追われる感覚が和らぐことによる、スタッフの精神的な余裕。そして、患者さんと向き合う時間が増えることによる、満足度の向上。これらは、医療の質と安全、そして「働きやすい職場づくり」に直結する、大切な価値と言えるでしょう。

(具体的な導入効果の数値例については、前述した訪問看護ステーションでの残業半減の事例(kango-award.jp)なども参考になります。)

よくあるご質問

導入を検討する管理者の方から、特によく寄せられる質問とその回答をまとめました。

個人情報やセキュリティは本当に大丈夫? +

これは最も重要な点です。最低限の条件として、スマートフォンなどの端末を紛失した際の対策(遠隔ロックやデータ消去)、複数の方法で本人確認を行う多要素認証、役職に応じたアクセス権限の設定、操作履歴が残る監査ログ、そしてデータの保存期間に関する院内規定を整備することが求められます。クラウドサービスを利用する場合は、データの保管場所が国内か、通信やデータが暗号化されているか、サービス提供会社が第三者機関による監査を受けているかなどを確認し、院内に情報セキュリティ委員会などがあれば、そこで承認を得るプロセスを経ることが望ましいです。

AIの精度が心配。どのくらい正確に使えるもの? +

精度は、利用するシステムや環境によって大きく変わります。医療専門の辞書を搭載し、使えば使うほど個人の話し方の癖に適応していく学習機能があるサービスは、比較的高い精度が期待できます。また、前述したように、周囲の雑音を減らす工夫や、はっきりとした話し方を心がけるといった、利用する側の工夫も精度に大きく影響します。最近では、単に文字起こしをするだけでなく、会話の中からカルテに必要な情報(主訴、現病歴、処方など)を自動で抽出して形式を整えるタイプのサービスも増えており、患者さんとの対面時間を増やす効果も指摘されています(目利き医ノ助などで解説されています)。

うちのような小規模な施設でも始められますか? +

はい、十分に可能です。公開されている導入事例には、一人医師のクリニックや、数名規模の訪問看護ステーション、地域の介護施設といった小規模な組織の例が数多くあります(medimoの在宅クリニック事例など)。まずはスマートフォン1台と、特定の業務(例えば、訪問看護報告書の作成だけ)に絞って試してみる、という小さな一歩から始めるのが現実的です。

導入にあたり、院内や施設内の合意をどうやって進めればいい? +

まず、この記事で解説したような「記載責任の所在をどう明確にするか」そして「監査ログをどのように残すか」という安全面のルールを先に決めて、関係者の不安を取り除くことが大切です。その上で、削減できる残業時間と導入コストを比較した簡単な試算を提示し、「まずは1ヶ月、〇〇科だけで試験的に導入してみませんか?」と限定的なパイロット導入を提案するのがスムーズです。この際の成功の指標は、入力時間の短縮率といった難しい数字を追うよりも、「記録の後回しが減った」「定時で帰れる日が増えた気がする」といった、現場の体感的な負担の軽減に置くくらいが丁度良いかもしれません。数字の競争よりも、皆が納得して安心して使えることを優先する姿勢が、結果的に導入を成功に導きます。

採用と定着にもつながる、職場づくりの小さな一歩

記録業務の時間を短縮することは、単に日々の業務が楽になるというだけではありません。それは、スタッフの働き方、そして組織の未来に、より大きな良い影響を与える可能性があります。

一日の仕事の見通しがつきやすくなり、定時で帰れる日が増える。これは、働く人にとって非常に大きな魅力です。そうした職場環境は、「働きやすい職場」として、求職者の目にも魅力的に映るでしょう。面接の場で「当院では、記録業務の負担を減らすために、音声入力やAIの活用を進めています」と具体的に伝えられれば、それは他施設との明確な差別化要因になります。

また、管理者の皆さんが記録業務のチェックや修正に費やしていた時間が削減できれば、その時間をスタッフとの面談や、新人への丁寧な指導(OJT)に充てることができます。こうしたコミュニケーションの積み重ねが、スタッフの安心感や定着率の向上につながっていくことは、多くの皆さんが実感されていることと思います。

もし、こうした新しい仕組みの立ち上げ期間中に、一時的に人手が足りなくなることが心配であれば、短期や単発の勤務から始められる採用サービスを活用し、変化の時期を乗り切るというのも一つの賢明な方法です。クーラは、看護師を必要な時に迅速に募集できるだけでなく、「お試し勤務」の仕組みを通じて、本格採用の前に相性を見極めることができ、ミスマッチを減らすことにも貢献します。求人から労務管理までの手間をデジタル技術で軽減できるのも特徴です。まずは必要な時に、必要な支援だけを利用してみてはいかがでしょうか。(施設向け情報:https://business.cu-ra.net/

まとめ:AIはあくまで「整える手」、最後に決めるのは「人」

音声入力とAI要約の技術は、日々の記録業務の負担を軽くし、医療やケアの現場に「時間」という貴重な資源を取り戻してくれる可能性を秘めています。

  • 音声入力とAI要約は、記録の「後回し」を減らし、患者さんや利用者さんとの対話とケアの時間を取り戻すための有効な手段となり得ます。
  • 導入を成功させるためには、「最終責任者の明示」「承認フローの固定」「監査ログの保存」「現場での運用ルール」といった、責任の所在を明確にする設計が何よりも大切です。
  • 最初から全体での導入を目指すのではなく、まずは特定の業務に絞って小さく試し、うまくいった方法を少しずつ横に展開していくのが、着実な進め方です。

現場の負担を減らし、時間的な余裕を作る工夫は、質の高いケアを提供する土台であると同時に、採用力の強化と人材の定着にもつながる、未来への投資でもあります。

もし今、この記事を読みながら、「新しいことを始めるにも、そもそも人手が足りない」「立ち上げの時期だけでも誰かに手伝ってほしい」と感じているのであれば、採用の選択肢を広げてみることもご検討ください。看護師の募集や、ミスマッチの少ない「お試し勤務」の仕組みについては、クーラの施設向けページで詳しくご確認いただけます。https://business.cu-ra.net/

参考にした公開事例(抜粋)

  • クリニックでの音声入力活用事例(AmiVoice Ex7):所見入力の時間短縮に加え、患者の待ち時間短縮にも貢献した例が紹介されています。
  • 訪問看護でのスマートフォン音声入力活用事例(kango-award.jp):記録時間と職員の残業時間を大幅に削減した、現場の工夫が光る取り組みです。
  • 介護施設での音声記録支援の事例(ndsoft.jp):ITに不慣れな職員でも簡単に使える仕組みを構築し、組織全体の運用を安定させた例です。
  • クリニック・在宅医療でのAI要約活用事例(medimo):少人数のクリニックでも導入しやすく、医師の負担軽減に直結した使い方が紹介されています。
  • 会話からのカルテ形式への要約に関する解説(目利き医ノ助):記録業務の効率化が、患者との対面時間を確保し、診療の質向上につながるという視点を提供しています。