小さな医療機関ほど“家族の力”が効く。でも、効きすぎると危険です
小規模な病院やクリニック、訪問看護ステーション、介護施設といった現場では、日々の運営を支えるために多岐にわたる業務が発生します。診療やケアという本来の業務に加えて、スタッフの採用や勤怠管理、会計処理、さらには院内で使用する備品の管理まで、「誰かがやらなければ現場が回らない」仕事は後を絶ちません。こうした状況下で、院長や施設長が専門業務に集中できるよう、その配偶者や家族が事務長やバックオフィス全般の責任者を務めるという運営形態は、日本では決して珍しいものではありません。
実際に、信頼できる家族が経理や総務といった管理部門を担うことで、意思決定のスピードが上がり、組織としての一体感が生まれる場面は多くあります。経営者の考えを深く理解している家族がいれば、外部の人間には頼みにくい細やかな配慮も期待できるでしょう。しかし、事業が成長し、スタッフの数が増え、業務が複雑化していく過程で、この「家族を巻き込むこと」そのものが、新たな問題の火種となることがあります。特に、公私の区別がつきにくい環境は、スタッフだけでなく、経営者家族自身の感情的な負担、いわゆる感情労働を増大させ、結果的に優秀なスタッフの離職や、予期せぬ労務トラブルへと発展するケースが少なくありません。
家族経営が持つ本来の良さを活かしつつ、組織としての健全性を保ち、起こりうる混乱を未然に防ぐためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。この記事では、実際の現場で起こりがちな事例を紹介しながら、関連する法令の基本的な考え方や、日々の運営に落とし込める現実的な対策について、一つひとつ整理していきます。
背景・課題:離職・採用コスト・感情労働が重なると、最終的に“家族”がすり減る
家族経営の危うさを考える上で、まず押さえておきたいのが、医療・介護業界が構造的に抱える課題です。具体的には、「高い離職率」「高騰する採用コスト」、そして見過ごされがちな「感情労働の増大」という三つの要素が複雑に絡み合い、小規模な組織ほど深刻な影響を及ぼします。
看護職の離職率は、決して低い水準にあるわけではありません。公益社団法人日本看護協会が毎年実施している「病院看護実態調査」を整理すると、2023年度における正規雇用看護職員の離職率は11.3%でした。特に注目すべきは、新卒採用者よりも既卒採用者の離職率が高い傾向にある点で、2023年度の既卒採用者の離職率は16.1%に達しています。これは、一定の経験を持つ人材であっても、新しい職場環境に馴染めずに短期間で離職してしまうケースが少なくないことを示唆しており、人の出入りが常に発生しやすい構造がうかがえます。
次に、採用にかかるコストも経営上の大きな負担となります。新たなスタッフを一人採用するためにかかる費用は、決して無視できる金額ではありません。特に、人材紹介サービスを利用する場合、その手数料は採用した人材の想定年収の20%から30%程度が相場とされています。これは業界内で広く認知されている水準であり、複数の公的な資料や業界レポートでも繰り返し示されています。仮に年収450万円の看護師を採用した場合、単純計算で90万円から135万円程度の紹介手数料が発生することになります。組織の規模が小さければ小さいほど、この一人当たりの採用コストが経営に与えるインパクトは大きくなります。
そして、こうした状況に「家族が現場の管理も担う」という構図が加わると、問題はさらに複雑化します。事務長を務める配偶者や家族は、経営者の代弁者であると同時に、現場で働くスタッフの管理者でもあります。これにより、「スタッフからの不満や要望を受け止める役割」と、「患者やその家族との間で発生するクレームに対応する役割」、そして「経営者であるパートナーや親族との意見調整を行う役割」という、三方向からのプレッシャーを一身に背負うことになりがちです。このような多方面への感情的な配慮や調整は、目に見えない労働、すなわち「感情労働」として蓄積され、担当者一人を精神的に追い込み、燃え尽き症候群を引き起こすリスクを著しく高めるのです。島田法律事務所のような労働問題に詳しい専門家のウェブサイトでは、こうした家族経営特有の感情的なもつれが、法的なトラブルに発展するケースも指摘されています。
離職が新たな採用コストを生み、その採用と定着のために家族である事務長が感情をすり減らす。この負のスパイラルに陥ると、最終的に最も疲弊するのは、経営を支えるはずの“家族”自身なのかもしれません。
実例紹介:小規模現場で起きがちな“家族事務長”トラブル
抽象的な課題だけでは、なかなか自分事として捉えにくいかもしれません。ここでは、小規模な医療・介護の現場で実際に起こりがちな「家族事務長」にまつわるトラブルの具体例をいくつか見ていきましょう。これらは、特定の事業所を指すものではなく、業界全体で報告されている典型的なパターンです。
例1:経営者と配偶者に権限が集中し、家族が“実質トップ”に——現場が萎縮するケース
比較的小規模なクリニックなどでは、経営者の配偶者が医療事務の責任者と事務長を兼務し、日々の業務の流れの中で自然と看護師長のような役割まで担ってしまうことがあります。家族間の連携がスムーズで、経営者の意向を即座に現場に反映できるため、一見すると非常に効率的で強固な体制に見えます。しかし、業務上の権限と、それに対する責任がたった一人に過度に集中すると、徐々に組織の風通しが悪くなることがあります。
例えば、事務長である配偶者の承認がなければ備品の一つも購入できない、シフトの希望が通りにくい、経営者に直接意見を伝えようとしても事務長が壁になってしまう、といった状況が生まれます。こうした環境では、スタッフは常に事務長の顔色をうかがうようになり、健全な意見交換や業務改善の提案が出にくくなります。さらに、キャパシティを超える業務量と強い権限が一人に集中することで、精神的な余裕がなくなり、スタッフに対する指示が次第に厳しくなっていくこともあります。医療機関向けの経営情報サイト「東京ドクターズ」などでも、こうした権力の集中が意図せず「パワーハラスメント」と受け取られ、労務問題に発展する危険性について注意が喚起されています。
例2:“防波堤”になった配偶者が疲弊——感情労働が蓄積するケース
スタッフと経営者との間に何らかの労働トラブル、例えば賃金や労働時間に関する意見の対立が起きたとします。このとき、間に立つ配偶者である事務長は、「スタッフの言い分も理解できる」という気持ちと、「経営者であるパートナーの立場を守らなければならない」という二つの相反する役割を同時に担うことになります。
その事務長は、スタッフからの不満を直接受け止める一方で、その内容をそのまま経営者に伝えると家族間の不和になりかねないため、表現を和らげたり、一部を自分の胸の内に収めたりします。逆に、経営者の厳しい方針を現場に伝える際には、スタッフの反発を最小限に抑えるために言葉を選び、丁寧な説明を尽くそうとします。このように、双方の“防波堤”として立ち続けることで、職場の平穏を維持しようと無理を重ねてしまうのです。労働問題に関する相談を受ける専門家の間では、配偶者である事務長が誰よりも現場の実情に詳しいキーパーソンであると同時に、その負担が最も最大化しやすいポジションである、という指摘がなされています。一個人の献身や自己犠牲に依存した組織体制は、その人が限界を迎えたときに、もろくも崩れ去る危険性をはらんでいます。
例3:介護・福祉の小規模施設でも“事務長のハラスメント”が火種になるケース
こうした問題は、クリニックや病院に限った話ではありません。介護施設や福祉事業所といった、より密な人間関係が求められる現場でも同様の構図が見られます。地域の経済情報誌「政経東北」などのメディアで報じられる記事や、業界専門サイトを調べてみると、事務長によるハラスメント疑惑が原因で現場の雰囲気が悪化し、経験豊富な職員の退職が連鎖してしまったという事例が散見されます。
これらのケースは、必ずしも家族経営に限定されるわけではありませんが、「経営者の身内や側近が実質的な権力を持ち、組織内で誰もその言動にブレーキをかけられない」という構造は、特にチェック機能が働きにくい小規模な組織ほど発生しやすいと言えます。本来であれば、スタッフを守り、働きやすい環境を整えるべき立場の事務長が、逆にストレスの原因となってしまう。このような状況は、サービスの質の低下にも直結しかねません。
例4:訴訟・和解金に至るケース——「見て見ぬふり」の代償
最も深刻なのは、現場で起きているハラスメントや不適切な労務管理が長期化し、最終的に法的な争いに発展してしまうケースです。介護業界の情報サイト「介護のまにまに」などでは、職員への暴言や不当な扱いが原因で、施設側が元職員から訴訟を起こされ、未払い賃金や慰謝料などの支払いを命じられた裁判例も紹介されています。
個別の事案の詳細には立ち入りませんが、これらの事例に共通しているのは、問題が表面化するまでに「見て見ぬふり」や「放置」の期間が長く存在したという点です。経営者は「家族のことだから」と問題を直視するのを避け、他のスタッフは報復を恐れて声を上げられない。その結果、問題が外部の労働組合や弁護士、労働基準監督署などに持ち込まれ、公になったときには、すでに手遅れの状態になっているのです。金銭的な支払いという直接的なコストはもちろんのこと、地域社会での評判の低下や、それに伴う採用活動の困難化など、経営に与える打撃は計り知れません。
背景にある“法と運用”のつまずきポイント(誤解しがちな論点)
家族経営の現場でトラブルが起きやすい背景には、労働関連の法律やその運用に関するいくつかの誤解や知識不足が潜んでいます。ここでは、特に小規模な事業所の経営者が見落としがちな、つまずきやすいポイントを4つ解説します。
1)「同居親族だけなら労基法は適用外」は事実。ただし“一人でも非親族を雇えば”話が変わる
労働基準法は、原則として労働者を使用するすべての事業に適用されます。しかし、法律には例外規定があり、「同居の親族のみを使用する事業」については、労働基準法の適用が除外されています。例えば、経営者とその配偶者の二人だけで運営しているクリニックなどがこれに該当します。この段階では、労働時間や休憩、休日に関する厳密な規定は及ばないことになります。
しかし、多くの経営者が誤解しがちなのは、この先です。事業が軌道に乗り、看護師や事務員など、親族以外の従業員を一人でも雇用した瞬間から、その事業所は労働基準法の適用対象となります。そして重要なのは、いったん適用対象となれば、そこで働く「同居の親族」であっても、その働き方の実態によっては労働基準法上の「労働者」と見なされる可能性があるという点です。例えば、経営者の指揮命令のもとに業務に従事し、その対価として給与を受け取っているなど、他の従業員と変わらない働き方をしている場合は、たとえ配偶者であっても労働者として扱われ、残業代の支払いや有給休暇の付与といった義務が発生します。国土交通省のウェブサイトなどでも、こうした適用範囲の考え方について解説がなされています。この切り替えのタイミングを認識していないと、後になって未払い残業代などを指摘されるリスクを抱えることになります。
2)「就業規則はウチの規模は不要」も落とし穴
「就業規則」は、職場のルールブックとも言える重要な書類です。労働基準法では、常時10人以上の労働者(パートタイマーやアルバイトを含む)を使用する事業場において、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出ることを義務付けています。
ここでよくある誤解が、「うちは従業員が10人未満だから、就業規則は必要ない」という考え方です。確かに、10人未満の事業場には作成・届出の義務はありません。しかし、だからといって職場のルールが何もなくて良いというわけではありません。従業員を一人でも雇う以上、労働時間、賃金の決定方法、退職に関する事項など、主要な労働条件については書面で明示する義務があります(労働条件通知書)。また、10人未満であっても、トラブルを未然に防ぎ、公平な職場環境を維持するためには、就業規則を作成しておくことが強く推奨されます。税理士法人などの専門家のサイト、例えば「みそら税理士法人」の解説記事などでも、小規模事業所における就業規則の重要性が強調されています。実態に合わない古い就業規則や、作成しただけで届け出ていない就業規則は、いざという時に法的な効力を持たない“無いのと同じ”扱いを受ける可能性があり、行政指導の対象にもなり得ます。
3)「グレーな節税・名ばかり役員・手当の付け替え」——短期的な軽さは、長期の重荷に
インターネット上では、「家族を役員にして節税する」「実態のない役職手当をつけて社会保険料を調整する」といった、いわゆる“裏ワザ”のような情報を見かけることがあります。家族経営の柔軟性を活かして、少しでも手元にお金を残したいと考える気持ちは理解できます。
しかし、こうした手法には大きなリスクが伴います。例えば、勤務実態が全くない家族を役員とし、高額な役員報酬を支払った場合、税務調査においてその報酬が不相当に高額であると判断され、経費として認められない(損金不算入)可能性があります。また、労務の側面から見ても、役職や手当の名称と、その人の実際の業務内容や責任が著しく乖離している場合、他の従業員との間で不公平感を生み、トラブルの火種となります。「なぜ経営者の家族だけが、特別な手当をもらっているのか」という不満は、従業員のモチベーションを著しく低下させます。「税理士法人テラス」のような専門家が発信する情報でも、節税効果だけを追い求めることの危険性、つまり、事業の実態と税務・労務の整合性を取ることの重要性が指摘されています。短期的に得られるメリットは、長期的に見れば税務上の追徴課税や労務トラブルといった、より重いコストにつながる可能性があることを理解しておくべきです。
4)「労基署が来たらどうする?」の備えがない
「うちは小さいから、労働基準監督署の調査なんて来ないだろう」と考えている経営者もいるかもしれませんが、これは希望的観測に過ぎません。労働基準監督署による調査(臨検監督)は、定期的な監督計画に基づいて行われる場合のほか、事業所で働く労働者や退職者からの申告(匿名での通報も含む)をきっかけとして行われることが非常に多いのが実情です。
調査では、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿(タイムカード)、就業規則、時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)といった基本的な書類の提出を求められ、法令違反がないかどうかがチェックされます。もし、勤怠管理がずさんであったり、残業代の計算に誤りがあったりすれば、是正勧告を受け、過去に遡って未払い賃金を支払うよう指導されることもあります。「医業承継サポート」のようなコンサルティング会社のウェブサイトで解説されているように、監督署の調査に慌てず対応するための唯一の近道は、日頃から法律に則った労務管理を地道に行い、必要な書類をきちんと整備しておくことです。いざという時のための備えを怠ることが、結果的に大きなリスクを抱え込むことにつながります。
解決アプローチ:家族の献身に頼らない仕組みへ
では、家族経営の良さを残しつつ、これまで見てきたような落とし穴を避けるためには、具体的にどのような手を打てばよいのでしょうか。大切なのは、特定の個人の頑張りや献身に依存する体制から脱却し、誰が担当しても公平かつ円滑に回る「仕組み」を構築することです。ここでは、5つのアプローチを提案します。
A. 役割の線引き:家族は「最終意思決定」と「対外発信」に限定する
トラブルの多くは、権限と役割が曖昧であることから生じます。特に家族が現場の管理者を務める場合、その指示が「経営者の意向」なのか「一個人の意見」なのかが分かりにくく、スタッフは過剰に忖度してしまいがちです。これを防ぐためには、役割の線引きを明確にすることが不可欠です。
一つの有効な方法は、経営に携わる家族の役割を、現場のスタッフに対する「直接的な指揮命令」から切り離し、「事業全体の最終的な意思決定」や「金融機関との折衝」「地域や関連機関への広報活動」といった、組織の外側に向かう業務や、経営の根幹に関わる部分に限定することです。そして、日々の業務指示やスタッフからの相談対応、第一次的な評価といった現場管理の役割は、親族ではない看護師長や事務主任といった中間管理職のスタッフに権限を委譲します。
このように権限を文書で整理し、スタッフが「この件は、まず〇〇さんに相談すれば良い」と迷わず動ける環境を作ることが、家族事務長への業務と感情の集中を防ぎ、「見えない圧力」が生まれる土壌をなくすことにつながります。
(ちなみに、こうした仕組みを整える以前の段階、つまり採用の入口で工夫することも有効です。例えば「クーラ」のように、お試し勤務を経てから本採用へと進むプロセスを標準化すれば、そもそも現場の雰囲気やルールに“合う”人材が残りやすくなります。結果として、入職後の管理コストや、中間管理職の負担そのものを軽減する効果が期待できます。)
B. ハラスメントを「構造」で防ぐ:一人に集めない・書面を整える
パワーハラスメントは、個人の性格だけに原因があるわけではなく、多くの場合、それを許容してしまう組織の「構造」に問題があります。特に、相談先が一つしかない、ルールが曖昧であるといった環境は、ハラスメントの温床となりがちです。対策の基本は、権限と同様に、相談ルートや評価の仕組みを一人に集中させないことです。
- 苦情・相談のルートを複線化する
- スタッフが何か困ったことや納得できないことがあった場合に相談できる窓口を、複数用意します。「直属の上司(看護師長など)」「人事担当(事務長など)」「さらにその上の役職者(経営者など)」といった院内のルートに加えて、可能であれば提携している社会保険労務士事務所などを外部相談窓口として設定するのも有効です。選択肢があるというだけで、スタッフは安心感を得られます。
- 面談は原則として複数名で対応し、記録を残す
- 採用面接や、評価に関する面談、あるいは問題行動に対する指導など、重要な話し合いを行う際は、必ず複数名で同席することをルールにします。これにより、一方的な言動を抑制し、客観性を担保することができます。また、話し合った内容については、簡単な議事録を作成し、当事者間で確認の上、保管しておくことが後の「言った、言わない」というトラブルを防ぎます。
- 規程や評価基準を実態に合わせて運用する
- 就業規則はもちろんのこと、服務規律(職場での行動ルール)、懲戒基準(問題行動に対する処分内容)、人事評価シートなどを、自院の現状に合わせて具体的に定めておくことが重要です。特に、評価項目や懲戒の基準に、「〇日以上の無断欠勤」や「〇%以上の目標達成」といった具体的な数字や期日が入っていない規程は、いざという時に説得力を持たず、“飾り”になってしまいます。医療法人向けに労務コンサルティングを行う「コスモス人事労務」のような専門機関のウェブサイトでも、放置されたハラスメントが訴訟や和解金、評判の低下という三重の経営ダメージにつながるため、規程整備と早期介入が結果的に最も低コストな対策であることが強調されています。
C. 採用の“入口”でミスマッチを減らす:短時間の現場体験を標準化する
どれだけ仕組みを整えても、そもそも職場の文化や人間関係に合わない人を採用してしまえば、早期離職のリスクは高まります。履歴書や職務経歴書、数回の面接だけで、応募者の人柄や他のスタッフとの相性、さらには実際の業務の流れへの適応力までを正確に見抜くことは、きわめて困難です。
そこで有効なのが、本採用の前に「お試し勤務」や「現場体験」の機会を設けることです。1日から4回程度の短期間、実際に現場で他のスタッフと一緒に働いてもらうことで、応募者側は「この職場で本当にやっていけそうか」を現実的に判断できますし、受け入れる事業所側も、書類上では分からないその人の働きぶりやコミュニケーションの取り方を確認できます。双方の期待値のズレを早い段階で可視化し、合意の上で次のステップに進むこの方法は、入職後の「こんなはずではなかった」というミスマッチを劇的に減らす効果があります。
先にも触れたように、看護職の離職率が二桁台で推移する業界においては、この採用の“入口”の質をいかに高めるかが、人材定着とコストコントロールの最大の鍵となります。応募者を集め、連絡を取り、面接を設定し、労務関係の書類を準備するといった一連の作業は、特に専任の人事担当者がいない小規模な事業所では、家族である事務長の大きな負担となりがちです。この負担を軽減するためには、応募者の母集団形成から連絡調整、お試し勤務の管理、さらには労務対応の自動化までを一気通貫で支援してくれるような、現代的な募集媒体を戦略的に活用することが求められます。規模が小さい組織ほど、個人の善意や努力に頼るのではなく、テクノロジーを活用した「仕組み」に業務を逃がしてあげることが、持続可能な運営につながるのです。(この点で、看護師の登録者数が多く、募集からお試し勤務、各種書類作成までをデジタル技術で効率化できる「クーラ」は、多忙な小規模事業所の現場と非常に相性が良いサービスと言えるでしょう。)
D. コストの見える化:採用単価の“相場”を置き換える
「人材紹介会社に頼むと、手数料は年収の20〜30%」という話は、もはや業界の“常識”のようになっています。しかし、この相場観に思考が縛られてしまうと、他の選択肢を検討する機会を失ってしまいます。大切なのは、この外部の相場を、自院独自の採用指標(KPI)に置き換えて管理することです。
例えば、「応募が何件あって、そのうち何人がお試し勤務に参加し、最終的に何人が本採用・継続勤務に至ったか」という一連のデータを記録し、その結果、一人を採用・定着させるために総額でいくらかかったのか(媒体費用や事務コストなど)を計算します。仮に、年収450万円の看護師一人を紹介会社経поで採用すると90万円から135万円のコストがかかるとします。一方で、募集媒体を活用した直接雇用で、お試し勤務を経たスタッフの定着率が非常に高いのであれば、たとえ媒体費用がかかったとしても、トータルで見れば採用コストを大幅に引き下げられる可能性があります。「メディカルリンク」のような人材サービスの情報サイトでも、多様な採用チャネルのコスト比較がなされており、一つの方法に固執しないことの重要性が示唆されています。自院の採用活動を数値で「見える化」することで、より費用対効果の高い方法へと戦略的にシフトしていくことが可能になります。
E.「法令の地雷」を踏まない最低限のチェックリスト
最後に、法的なリスクを回避するための最低限のチェックポイントを再確認しておきましょう。これらは、健全な組織運営の土台となる部分です。
- 同居親族のみ適用外の誤解を捨てる
- 親族以外の従業員を一人でも雇った瞬間から、労働基準法が適用されることを再認識しましょう。家族従業員の働き方の実態も確認が必要です。
- 就業規則と労働条件の明示
- 従業員が10人以上(パート・アルバイト含む)になったら、速やかに就業規則を作成し、届け出ます。10人未満であっても、採用時には労働条件通知書を必ず交付し、職場のルールを明確にしておきましょう。
- 監督署対応は平時の整備がすべて
- 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿(タイムカード)は、いつでも提出できるよう正確に記録・保管します。残業させる場合は36協定の締結・届出が、年次有給休暇は法定通りの付与と管理が必要です。日頃の地道な整備が、最大のリスク管理となります。
- “節税の裏ワザ”は実態との整合性を確認する
- 家族への役員報酬や各種手当が、その業務実態に見合っているか、客観的に説明できるかを見直しましょう。税務・労務の両面から見て、不自然な点がないかを確認することが、長期的なトラブルを避けることにつながります。
※本稿で提供する情報は、あくまで一般的な解説であり、個別の事案に対する法務的・税務的な助言を行うものではありません。具体的な判断や手続きを進める際には、必ず弁護士や社会保険労務士、税理士といった専門家にご相談ください。
まとめ:家族の献身に頼るほど、組織はもろくなる
経営者の配偶者や家族が事務長を務める、という経営スタイルは、迅速な意思決定と強い信頼関係を基盤とした“最強の右腕”となり得る可能性を秘めています。その一方で、採用が難しく、人の入れ替わりも少なくない医療・介護の現場においては、感情的な調整役と現場の指揮官という二つの重責を家族の一人に集中させてしまうことが、結果的にその家族自身を疲弊させ、組織全体の安定性を損なう原因にもなりかねません。
本当に家族を守り、職場を強くするためには、特定の個人の献身に依存する状態から脱却することが不可欠です。この記事で提案した、「役割の明確な線引き」「採用の入口(お試し勤務)でのミスマッチ削減」、そして「規程と記録の整備」という三つの基本的な対策を講じるだけでも、多くの「家族だからこそ起きてしまう問題」は、その発生を未然に避けることができるはずです。家族の力を健全な形で活かすために、今一度、自院の仕組みを見直してみてはいかがでしょうか。
クーラ導入誘導:まずは“入口の作り直し”から
ここまでお読みいただき、自院の採用や労務管理のあり方について、何かヒントを得ていただけたのであれば幸いです。もし、「家族事務長の負担を具体的に減らしたい」「もっと効率的で、ミスマッチの少ない採用を実現したい」とお考えであれば、まずは採用の“入口”から作り直してみることをお勧めします。
看護師採用サービス「クーラ」は、まさにそうした課題を解決するために設計されています。
これまでの「家族がいるから、なんとか回っている」という属人的な状態から、「家族がいてもいなくても、組織として健全に回る」仕組みへ。その第一歩として、採用の入口を見直すことは、非常に効果的です。まずは下記のリンクから、クーラがどのようなサービスなのか、詳細をご覧になってみてください。無理なく始められる、新しい採用の形がそこにあります。