今回のインタビューでは、順天堂大学 保健看護学部 基礎看護学の石塚淳子教授にお話を伺いました。石塚先生は、看護教員の力量形成や教育方法についてその人の人生を語っていただくライフコースアプローチを用いて研究し、多くの看護師を育ててきました。

なぜ看護の道を志したのですか?

私は小さい頃から看護師ではなく小学校の教師を目指していました。高校では「将来、小学校の先生になるんだ」という思いで文系に進み、教育学部のある大学を受験するつもりでいました。

当時、両親が共働きだったので、祖母によく面倒をみてもらっていたのですが、私が高校2年生のときに大好きな祖母が白血病で入院してしまったのです。その入院がきっかけで、看護という職業を知りました。

看護は人に関わる職業としてはよい職業だと思ったのですが、当時は看護師を目指すために大学を受験することは選択肢になかった時代。「それなら同じ教育の分野で、保健室の養護教員になればいいかもしれない」と思い、親に相談して賛成してもらえました。

そして、保健室の先生になるために、看護大学を目指すことになりました。しかし、当時は理系コースに在籍していないと、ほとんどの看護大学は受験できませんでした。文系でも受験できるところはないかと探してみると、受験できる大学があることが分かったのです。「受けられるんだったら、受けてみよう」という一心で、他のすべり止めは教育学部にして、高知女子大学を受験しました。

大学入学後も保健室の先生になるつもりでしたが、今まで親の言いなりになって育ってきた優等生だったので、一人暮らしと大学生活を謳歌していました。

そんな中、実習先の一つである看護の実習で受け持った患者さんとのエピソードが心に響きました。「看護の世界はただものではない」という強い印象を受けたのです。そして、「看護の世界に飛び込んでみたい」と思いました。

このような経緯で親の大反対を受けましたが、なんとか説得して、看護師を目指すことになりました。

先生のご研究内容について教えてください

私は研究者というよりも実践者だと思っています。顕微鏡をのぞくのではなくて、人を相手とする仕事。臨床で看護師をしているときは患者さん、教育者になったら学生が目の前にいます。

私は臨床で7年間経験を積み、知人の勧めもあって専門学校で働くことになりました。その専門学校は、自分が受けてきた教育とあまりにも違って、とても丁寧に教えている姿にびっくりしたのです。

そのような中でも先輩や同僚の看護教員はとても教育熱心で探求心旺盛でした。特に刺激を受けたのが、私と同じ基礎看護学で20歳くらい年上の先生でした。その先生は、研修会や学会に積極的に参加するなど、とてもエネルギッシュで色々なことにチャレンジしていました。学生からの人望がとても厚い先生でした。

あるとき、私と同僚で学会発表をしようとしたのですが、期限が迫っているので諦めかけていました。その先生に相談すると、「大丈夫!やれるからやろうよ」と言われたのです。その言葉を聞いて、私は「やれるのか。それなら、やるしかないか!」と自然に思えました。そして、やってみたら出来てしまったのです。

学生に置き換えて考えると、一塊の迷いもなく信じることができる時、学生はものすごい力を発揮するのだろうと強く思いました。

その後も、「どうしたらその先生のように学生にやる気を出させられるのか」「どういう教育者であるべきなのか」と考えていました。

縁あって教育学の先生と知り合ったことから、大学院に進むことになりました。看護学ではなく小中学校の教員や塾の講師がいるような教育学の研究科だったので、在学中は「看護師さんってどうなの?看護はなぜこうなの?」と興味深く問われることが多く、とても刺激を受けました。

そのときから、「看護教員はどのように教員になっていくのか」その人の人生をたどってライフコースを描きながら研究していくことが私のテーマになりました。

今では、いろいろな先生にインタビューして、教員になるきっかけや価値観、考え方を聞いています。私自身、いろいろなお話を聞くことで勉強させてもらっています。そして、インタビューを受ける方も、自分の人生を振り返る機会になり、「インタビューを受けてよかった」と言ってもらえることが多々あります。

今後は「ベテランの先生がどのように看護を教えているのか」を明らかにして、若い先生達に伝承していく仕組みをつくりたいと思っています。

学生に教える際に大切していることは何ですか?

学生に教える中で、いい思い出よりも「本当にそれでよかったのか」という後悔の念の方が多くあります。その中でも大事にしていることは、失敗やミスがあって当たり前。でもダメなものはダメ、失敗してもその後にどのように行動するかということが大事、と伝えるようにしています。

学生にダメなものはだめと厳しく言ってしまうことがあります。他の先生は学生に甘くしてしまうけれど、ダメなものはダメ。学生がその後にどう行動するかが大切。そして、失敗やミスを修正できればよいと思っています。

私は初めは怖い人だと思われるのですが、学生と関わっていく内に「先生は厳しいけど、愛情がある」と言われることもあります。私が大学院生だった頃に思ったことは、素晴らしい先生ほど教えることはシンプルでわかりやすく、しかも謙虚でした。分からないことは素直に分からないと言ってくれる。私も、そういう姿勢を大切にして学生に謙虚でいようと思っています。

看護師を目指す人は一般的に優しい人が多い。そして、心が繊細で傷つきやすい。学生には「自分がつらくなったときは、誰かが助けてくれるからヘルプサインを出したらいい」と伝えています。実際に看護師が仕事をやめたくなったときには、先輩や同僚など近くにいる人が助けてくれたという調査結果もあります。

そして、責任を持つことも大切です。学生時代から責任を持つように伝えています。

なにより学生はこれから伸びていく人なので、怖がらずに質問して欲しい、視野を広げて欲しいと思います。学生のうちにサークルに参加したり、学生ならではのいろいろな経験をして欲しい。あなたが豊かになればなるほど、患者さんのためにもなり、看護の世界のためにもなるでしょう。

復職に不安を抱えている潜在看護師へアドバイスを下さい

私自身、入院した経験があるのですが、看護師の一言は医師とは違う安心感があります。看護師の仕事には、人を幸せにする力がある。看護の力ってすごいなと身に染みて思っています。

私が入院したときの担当看護師はとても素敵な方でした。今では電子カルテや機械で測るばかりで看護師は患者さんのことをあまり触らないですが、その看護師は全身をものすごく観察していたんですね。手足にしびれがないかなど、全身に触れてきちんと診てくれたので、「私のことをちゃんと診てくれている」と感じて絶大な信頼を持てたのです。

看護師は心優しいだけでなく、専門的な知識と技術がもちろん必要です。そういう看護師は患者さんから信頼されると思います。やはり知識と技術のアップデートを続けるということが大事です。

患者さんと家族はあなたが看護してくれることを待っています。今休職されている方も、あなたの経験が看護に役立てられます。人を幸せにする力があります。ぜひ勇気を出して復職して、できるところから始めてみましょう。