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刺入部位が変わった?看護師が覚えておきたい筋肉注射の最新の手技【部位・針・逆血確認】

「筋肉注射の刺入部位が変わったって本当?」「肩峰から3横指下で習ったけど、今も同じ?」「逆血確認は必要?」と不安な看護師さんへ。筋肉注射の部位、三角筋・大腿外側広筋・中殿筋の選び方、針のゲージと長さ、皮下注射との違い、神経損傷やSIRVAを避けるポイント、ワクチン接種時の手順までわかりやすく解説します。

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ひなた 執筆 ひなた
刺入部位が変わった?看護師が覚えておきたい筋肉注射の最新の手技【部位・針・逆血確認】

「看護師として復職する前に、筋肉注射の手技を確認しておきたい」

「筋肉注射の刺入部位が変わったって聞いたけど、本当?」

「肩峰から3横指下で習ったけど、今もその方法でいいの?」

このように感じている看護師さんは多いのではないでしょうか。

日本ではこれまで、ワクチン接種を皮下注射で行うことが多く、筋肉注射を日常的に実施する機会は限られていました。しかし、新型コロナワクチンをきっかけに筋肉注射への関心が高まり、より安全に実施するための刺入部位や姿勢、針の選び方、逆血確認の考え方があらためて見直されるようになりました。

結論からいうと、筋肉注射そのものがまったく別の手技に変わったわけではありません。大きく変わったのは、「なんとなく肩峰から3横指下」ではなく、神経や滑液包を避けるために、解剖学的なランドマークを確認して刺入点を決める意識が高まったことです。

この記事では、看護師が覚えておきたい筋肉注射の最新の手技について、成人・小児の刺入部位、三角筋・大腿外側広筋・中殿筋の選び方、針のゲージと長さ、逆血確認の要否、皮下注射との違い、神経損傷を避けるポイントまでまとめて解説します。

※本記事は医療従事者向けの一般的な解説です。実施時は必ず、薬剤の添付文書、医師の指示、所属施設の手順書、自治体・学会等の最新資料に従ってください。

まず結論:筋肉注射で押さえたいポイント早見表

筋肉注射の手技で迷いやすいポイントを、最初に一覧で確認しておきましょう。

確認項目現在押さえたいポイント
成人のワクチン接種部位基本は三角筋中央部。肩峰だけでなく、三角筋の輪郭と腋窩ひだの高さを確認する
小児の接種部位1歳未満は大腿前外側部、1〜2歳は大腿前外側部または三角筋中央部、3歳以上は三角筋中央部が標準
患者さんの姿勢腕を自然に下ろし、リラックスしてもらう。腰に手を当てて肘を張る姿勢は避ける
刺入角度原則90度
針の太さ成人では22〜25Gが目安。小児では年齢・部位に応じて23〜25G、乳児では25Gが多い
針の長さ筋肉に届く長さを選ぶ。体格、筋肉量、皮下脂肪の厚さで調整する
逆血確認ワクチン接種では原則不要
接種後揉まずに軽く押さえる
注意したい合併症腋窩神経障害、橈骨神経障害、坐骨神経障害、SIRVA
打ち間違い時自己判断で再接種せず、医師・責任者へ報告し、薬剤ごとの対応を確認する

小児の筋肉内接種については、日本小児科学会が「小児に対するワクチンの筋肉内接種法について(改訂第4版)」を公表しており、年齢別の接種部位や針の太さ・長さ、逆血確認の考え方が整理されています。

筋肉注射の刺入部位が「変わった」と言われる理由

「筋肉注射の刺入部位が変わった」と言われる背景には、日本のワクチン接種の歴史があります。

日本では1970年代に、解熱薬や抗菌薬の筋肉内注射に関連して大腿四頭筋拘縮症が報告されました。そのため、医薬品を筋肉内注射で投与することが避けられる傾向が長く続きました。ただし、日本小児科学会は、当時問題になったのはpHが低く浸透圧の高い薬剤の頻回投与などであり、ワクチン接種との関連に言及したものではないと説明しています。

一方、海外では、生ワクチンを除く多くのワクチンは原則として筋肉内接種で行われてきました。日本小児科学会も、筋肉内接種は皮下接種に比べて局所反応が少なく、免疫原性は同等かそれ以上であることが知られていると説明しています。

つまり、筋肉注射の刺入部位が「突然変わった」というより、日本でも筋肉注射を安全に行う機会が増えたことで、刺入部位をより正確に確認する必要性が高まったと考えるとわかりやすいでしょう。

従来、上腕への筋肉注射では「肩峰から3横指下」と覚えることが多くありました。しかし、奈良県立医科大学附属病院臨床研修センターの筋肉注射手技マニュアルでは、従来教科書に記載されていた「肩峰から3横指下」は腋窩神経に当たる高さのため好ましくないと説明されています。

一方で、厚生労働省関連の接種資料では、三角筋中央部への接種について「肩峰から真下に3横指程度下の位置が目安」としながら、肩峰下の前後腋窩線を結ぶ線の高さを推奨する報告もあると記載されています。

このため、現場では次のように理解しておくとよいでしょう。

よくある疑問現在の考え方
「肩峰から3横指下」は間違い?一律に禁止とまでは言えません。ただし、指の太さや体格でずれるため、解剖学的ランドマークを確認することが重要です。
何cm下と覚えればいい?距離だけでなく、肩峰、三角筋の輪郭、前後の腋窩ひだを確認します。
何を避けたい?高すぎる刺入によるSIRVA・腋窩神経障害、低すぎる刺入や不適切な姿勢による橈骨神経障害を避けます。
一番大切なことは?肩から上腕まで十分に露出し、腕を自然に下ろし、三角筋中央部を確認して90度で刺入することです。

筋肉注射と皮下注射の違い

筋肉注射と皮下注射は、薬液を届ける組織が異なります。

筋肉注射は、皮膚と皮下組織を通過して筋肉内に薬液を注入する方法です。皮下注射は、皮膚の下にある皮下脂肪組織に薬液を注入する方法です。

CDCのPink Bookでは、ワクチンは目的の組織に届くことで最適な免疫反応が得られ、注射部位反応を減らせると説明されています。また、推奨された投与経路から外れると、ワクチンの有効性が低下したり、局所反応が増えたりする可能性があるとされています。

項目筋肉注射皮下注射
薬液を入れる場所筋肉内皮下組織
主な接種部位三角筋、大腿前外側部、中殿筋など上腕外側、腹部、大腿外側など
刺入角度原則90度30〜45度または45度
皮膚の扱い成人三角筋では皮膚を伸展することが多い皮下組織を確保するため、つまむことが多い
針の選び方筋肉に届く長さが必要筋肉に届かない長さを選ぶ
注意点神経損傷、SIRVA、骨への接触、皮下注入にならないこと筋肉内に入らないこと、薬剤の吸収速度、局所反応

皮下注射では皮下組織に入れるため、皮膚や皮下組織をつまみ上げることがあります。一方、筋肉注射で皮膚を強くつまむと、皮下組織の厚みが増え、針が筋肉に届きにくくなることがあります。

ただし、小児の筋肉内接種では、日本小児科学会が「接種部位の筋肉をつまみ、90度で針を挿入する方法」と、WHOが推奨する「接種部位を伸展してから接種する方法」の両方に触れています。成人・小児、薬剤、施設手順で細部が異なるため、対象者と手順書に合わせて判断しましょう。

筋肉注射の部位の選び方:三角筋・大腿外側広筋・中殿筋

筋肉注射の部位は、年齢、体格、筋肉量、薬液量、薬剤の種類、接種目的によって選びます。

ワクチン接種では、成人・思春期では三角筋、小児では年齢に応じて大腿前外側部または三角筋が選ばれます。CDCのPink Bookでも、筋肉注射によるワクチン接種で推奨される部位は、大腿前外側部の外側広筋と上腕の三角筋の2つとされています。

部位主な対象・場面メリット注意点
三角筋成人・思春期・3歳以上の小児のワクチン接種、小容量の筋注露出しやすく、ワクチン接種で標準的に使いやすい高すぎるとSIRVA、低すぎると橈骨神経障害のリスク。筋肉量が少ない場合は注意
大腿前外側部・大腿外側広筋乳児、1〜2歳、小児で三角筋の筋肉量が少ない場合、成人で上腕が不適な場合筋肉量を確保しやすく、乳幼児で選びやすい大腿中央1/3の前外側部を確認する。疼痛や歩行への影響に配慮
中殿筋・腹側殿部ワクチン以外の薬剤で、比較的多めの筋注量が必要な場合など背臀部より坐骨神経から離れた部位を選びやすいランドマーク確認が必須。ワクチン接種では臀部は原則選ばない
背臀部従来使われることがあった部位筋肉量はある坐骨神経や血管、脂肪組織の問題があり、ワクチン接種部位としては不適切

日本小児科学会は、小児のワクチン接種について、1歳未満では大腿前外側部、1〜2歳では大腿前外側部または三角筋中央部、3歳以上では三角筋中央部を標準的な接種部位としています。また、明らかに三角筋の筋肉量が少ない場合は、年齢に関係なく大腿前外側部に接種することも可能としています。

ワクチン接種で臀部を選ばない点も重要です。日本小児科学会は、臀部は筋肉の容積が小さく、脂肪組織や神経組織が多く、坐骨神経損傷の可能性があるため、適切なワクチン接種部位ではないと説明しています。

カナダの予防接種ガイドでも、能動免疫を目的とするワクチンは臀部へ投与すべきではなく、免疫グロブリンなど大容量投与で臀部を使う場合も、坐骨神経損傷を避けるため適切な部位選択が必要とされています。

中殿筋・腹側殿部は、ワクチン接種というより、薬剤の種類や量によって選択されることがある部位です。殿部への筋肉注射では、ランドマークの取り方により刺入点がばらつくため、十分な訓練と施設手順に沿った実施が必要です。日本看護技術学会誌に掲載された研究でも、殿部筋肉内注射の特定方法により部位がばらつき、坐骨神経の分布域に近づく危険性が指摘されています。

成人の三角筋への筋肉注射:刺入点と姿勢

成人のワクチン接種で多く使われるのが、上腕の三角筋です。

新しい手技として紹介されることが多い刺入点は、次の2本の線が交わる点です。

  1. 肩峰中央から垂直に下ろした線
  2. 前腋窩ひだの上縁と後腋窩ひだの上縁を結ぶ線

この交点が、三角筋中央部の刺入点の目安になります。奈良医大の筋肉注射手技マニュアルでも、前後の腋窩ひだの上縁を結ぶ線と、肩峰中央からの垂線の交点が刺入点として示されています。

三角筋中央部の刺入点の目安

刺入部位を確認するときは、患者さんに肩から上腕までしっかり露出してもらいます。衣服で肩峰や三角筋の輪郭が隠れていると、刺入点が高すぎたり低すぎたりする原因になります。

患者さんの腕は、肘を張らず、自然に下ろしてもらいます。腰に手を当てて肘を外に張る姿勢は避けましょう。奈良医大のマニュアルでは、肩関節を内旋した姿勢では橈骨神経を誤って穿刺する危険があるとされています。

刺入点を決めるときのポイントは、次の3つです。

確認ポイント理由
肩峰と三角筋の輪郭を触知する肩峰からの距離だけで判断しないため
腕を自然に下ろしてもらう橈骨神経の位置変化によるリスクを避けるため
接種者の目線を刺入部位の高さに合わせる刺入点が上方へずれるのを防ぎやすくするため

接種者が立ったまま上から見下ろすと、刺入点が肩に近くなりやすくなります。可能であれば接種者も座る、または目線を刺入部位に合わせると、位置のずれを防ぎやすくなります。

厚生労働省関連資料でも、接種部位が上方すぎるとワクチン関連肩関節障害を、下方すぎると橈骨神経障害を起こすリスクがあるため注意が必要とされています。

小児の筋肉注射:年齢別の刺入部位

小児の筋肉注射では、年齢によって標準的な接種部位が変わります。日本小児科学会の「小児に対するワクチンの筋肉内接種法について(改訂第4版)」をもとに、年齢別の接種部位や針の太さ・長さ、逆血確認の考え方が整理されています。更新時には、つねに最新版を反映しておくことが重要です。

年齢標準的な接種部位補足
新生児大腿前外側部外側広筋の中央1/3
乳児(1歳未満)大腿前外側部三角筋より筋肉量を確保しやすい
1〜2歳大腿前外側部または三角筋中央部筋肉量を確認して選択
3〜18歳三角筋中央部明らかに筋肉量が少ない場合は大腿前外側部も可能

大腿前外側部に接種する場合は、大腿部を上・中・下の3分割で考え、中央1/3の前外側部を目安にします。日本小児科学会は、1歳未満では外側広筋の中央1/3を接種部位としています。

小児では、年齢だけでなく、体格や筋肉量も確認することが大切です。同じ年齢でも発育には差があり、三角筋の筋肉量が十分でない場合があります。日本小児科学会も、明らかに筋肉量が少ない場合は、年齢に関係なく大腿前外側部に接種することも可能としています。

また、小児の臀部へのワクチン接種は避けます。臀部は脂肪組織や神経組織が多く、坐骨神経損傷の可能性があるため、適切なワクチン接種部位ではないとされています。

筋肉注射に使う針のゲージと長さ

筋肉注射では、薬液を確実に筋層へ届けるため、針の太さと長さを適切に選ぶ必要があります。

ゲージ(G)は針の太さを示す単位で、数字が大きいほど針は細くなります。たとえば、23Gより25Gのほうが細い針です。

CDCは、針の長さを選ぶとき、投与経路、患者の年齢、成人では性別と体重、注射部位、注射手技を考慮するとしています。さらに、ワクチンは目的の組織に届く必要があり、施設では患者層に応じた長さの針を備えておくべきと説明しています。

カナダの予防接種ガイドでも、針は目的の組織に届く長さが必要だが、骨に当たるほど長すぎてはいけないとされています。針が短すぎると、ワクチンが皮下組織など浅い組織へ入ってしまい、炎症、硬結、肉芽腫形成などの局所反応につながる可能性があります。

成人の筋肉注射:針の太さと長さの目安

体格・状況太さの目安長さの目安注意点
標準的な成人22〜25G25mm前後三角筋中央部に90度で刺入
痩せ型・高齢者など筋肉量が少ない場合22〜25G16〜25mm骨に当たらないよう筋肉量を確認
皮下脂肪が厚い場合22〜25G25〜38mm針が短いと皮下注入になる可能性
大腿前外側部を使う場合薬剤・施設手順に従う25〜38mm以上を検討体格と部位で判断

厚生労働省関連資料では、新型コロナワクチン接種の注射針について、通常は25G・25mmを使うが、年齢・体格に応じて適切に筋肉内に接種できるものを選ぶとされています。また、高齢者など筋肉量の少ない人では16mmの針も示されています。

CDCの成人向け目安では、60kg未満では条件により5/8インチ、60〜70kgでは1インチ、女性70〜90kg・男性70〜118kgでは1〜1.5インチ、女性90kg超・男性118kg超では1.5インチが推奨されています。日本の現場でそのまま機械的に当てはめるのではなく、体格・筋肉量・施設手順と合わせて判断する参考値として押さえておきましょう。

小児の筋肉注射:針の太さと長さの目安

日本小児科学会の改訂第4版では、小児の年齢・部位別に標準的な針の太さと長さが示されています。

年齢接種部位標準的な太さ標準的な長さ
新生児大腿前外側部25G16mm
乳児(1歳未満)大腿前外側部25G16〜25mm
1〜2歳大腿前外側部23〜25G25〜32mm
1〜2歳三角筋中央部23〜25G16〜25mm
3〜18歳三角筋中央部23〜25G16〜25mm

日本小児科学会は、国内の乳児を対象とした皮膚厚のデータに触れ、乳児の大腿前外側部では皮膚から骨までの長さが25mmより短い児がいること、皮膚から筋膜までの長さは全例で16mm未満であったことを紹介しています。そのため、この月齢での針の長さは、接種方法によって個別に検討する必要があるとされています。

小児では、同じ年齢でも体格差が大きいため、年齢だけで針を決めないことが重要です。筋肉量、皮下脂肪の厚さ、接種部位を確認し、必要に応じて医師や施設手順に従って選択しましょう。

ワクチン接種時の筋肉注射の実施手順

ここでは、成人の三角筋にワクチンを筋肉注射する場面を想定して、実施手順を確認します。実際には、薬剤の添付文書、予診結果、施設の手順書に従ってください。

  1. 接種前に確認する:氏名、生年月日、接種するワクチン・薬剤、接種量、投与経路、有効期限、ロット番号、禁忌・注意事項、アレルギー歴、前回接種歴を確認します。アルコール過敏がある場合は、アルコール以外の消毒綿を使用します。

  2. 患者さんの姿勢を整える:背もたれのある椅子に座ってもらい、肩から上腕までしっかり露出してもらいます。過緊張や採血時に気分不良を起こしやすい人では、ベッド上での接種も検討します。腕は自然に下ろし、肘を曲げたり、腰に手を当てたりしないようにします。肩関節が内旋すると、橈骨神経損傷のリスクが高まる可能性があります。

  3. 刺入部位を確認する:肩峰、三角筋の輪郭、前後の腋窩ひだを確認します。肩峰中央から垂直に下ろした線と、前後の腋窩ひだの上縁を結ぶ線の交点を目安に刺入点を決めます。接種者の目線を刺入部位と同じ高さにすると、刺入点が高くなりすぎるのを防ぎやすくなります。

  4. 消毒する:刺入部位を中心に、十分な範囲を消毒します。穿刺部位を中心から外側に向けて円を描くように、直径5cm以上の範囲を消毒し、アルコールが乾燥するまで待ちます。

  5. 針を90度で刺入する:注射針を皮膚に対して90度で刺入します。成人の三角筋では、皮膚を強くつまみ上げず、必要に応じて皮膚を軽く伸展させます。

  6. しびれ・強い痛みがないか確認する:刺入時や注入前後に、しびれや強い痛みがないか確認します。強い痛みやしびれを訴えた場合は、無理に注入せず、針をいったん抜いて医師や施設手順に従って対応します。

  7. 薬液を注入する:シリンジと注射針が安定するように持ち、適度な速度で薬液を注入します。ワクチン接種では、逆血確認は原則不要です。骨に当たった場合は、2〜3mm引き戻してから注入します。

  8. 抜針し、揉まずに押さえる:抜針後は、消毒綿やガーゼで軽く押さえます。接種部位は揉みません。抗凝固療法や抗血栓療法を受けている人では、最低2分間強めに押さえてもらいます。

  9. 針を安全に廃棄する:針刺し事故を防ぐため、使用済み針はリキャップせず、注射器ごと専用廃棄容器に廃棄します。

  10. 接種後の観察を行う:血管迷走神経反射やアナフィラキシーに注意して観察します。接種後の失神や気分不良に備え、観察室への移動にも注意します。

上腕部への筋肉注射の手順

筋肉注射で逆血確認は必要?最新の考え方

「筋肉注射では、必ず逆血確認をする」と習った看護師さんも多いかもしれません。しかし、ワクチン接種における筋肉注射では、現在、逆血確認は原則不要とされています。

厚生労働省関連資料では、三角筋には大きな血管がないため、陰圧をかけて血液の逆流を確認する必要はないと記載されています。日本小児科学会も、小児の推奨接種部位には大きな血管が存在しないため、あえて内筒を引いて血液の逆流がないことを確認する必要はなく、そのまま薬液を注入するとしています。

Immunize.orgの専門家向けQ&Aでも、CDCはワクチン投与時の逆血確認を推奨しておらず、その必要性を正当化するデータがないこと、逆血確認は痛みを増やすデータがあること、筋肉注射は大きな血管がある部位では行わないことが説明されています。

ただし、ここで大切なのは、逆血確認が不要=何も確認しなくてよいという意味ではないことです。ワクチン接種時には、次の確認がより重要になります。

確認すべきこと理由
接種部位が正しいか高すぎる・低すぎる刺入を防ぐ
針が筋肉に届く長さか皮下注入を防ぐ
しびれや強い痛みがないか神経刺激・神経損傷の可能性を早期に察知する
薬剤・用量・投与経路が正しいか投与ミスを防ぐ
接種後に異常反応がないか血管迷走神経反射・アナフィラキシーに対応する

ワクチン以外の筋肉注射では、薬剤の種類や施設手順により対応が異なる場合があります。迷う場合は、必ず医師・薬剤師・施設手順書に確認しましょう。

神経損傷・SIRVAを防ぐために知っておきたいリスク

筋肉注射で避けたい合併症には、橈骨神経障害、腋窩神経障害、坐骨神経障害、SIRVAなどがあります。

リスク起こりやすい場面予防のポイント
腋窩神経障害肩峰に近い高すぎる刺入、肩峰から3横指下を機械的に選ぶ場合三角筋中央部を確認し、肩峰・腋窩ひだをランドマークにする
橈骨神経障害刺入部位が低すぎる、腕を内旋させた姿勢で接種する腕を自然に下ろし、腰に手を当てる姿勢を避ける
坐骨神経障害臀部、とくに背臀部への不適切な刺入ワクチン接種では臀部を避ける。中殿筋を使う場合も訓練された手技で行う
SIRVA肩峰に近い高すぎる刺入、滑液包付近への誤注入肩に近い位置を避け、三角筋中央部に刺入する

奈良医大のマニュアルでは、肩峰から3横指下は腋窩神経と後上腕回旋動脈が走行する高さであるため好ましくないと説明されています。また、肘を張った姿勢で肩を内旋して注射すると、橈骨神経を損傷する可能性があることも示されています。

SIRVAは、Shoulder Injury Related to Vaccine Administrationの略で、ワクチン接種に関連して生じる肩関節障害を指します。肩峰に近い高い位置に接種すると、三角筋下滑液包など肩関節周囲の組織に薬液が入る可能性があり、肩の痛みや可動域制限につながることがあります。奈良医大のマニュアルでは、肩峰より平均約4cmまでの高さには三角筋下滑液包が三角筋の裏に存在し、ワクチンの誤注入によるSIRVAが海外で多数報告されていると説明されています。

また、臀部への筋肉注射では坐骨神経損傷に注意が必要です。CDCのPink Bookは、乳児・小児では抗菌薬の臀部注射後に坐骨神経損傷がよく記録されていることを理由に、ワクチン投与で臀部筋を使用しないと説明しています。

腋窩神経の走行とSIRVA(三角筋下滑液包)

神経損傷やSIRVAを防ぐには、「刺入点だけ」ではなく、姿勢、露出、目線、針の長さ、注入前の確認をセットで考えることが大切です。

皮下注射になったかも?打ち間違い時の対応

筋肉注射で起こりうるミスのひとつが、「本来は筋肉内に入れるべき薬液が、皮下に入ってしまった可能性がある」というケースです。皮下注射になりやすい状況には、次のようなものがあります。

状況起こりうること
針が短すぎる筋層に届かず、皮下組織に薬液が入る
皮膚を強くつまんだ皮下組織が厚くなり、筋層に届きにくくなる
刺入角度が浅い皮下組織に入る可能性が高くなる
皮下脂肪が厚い標準針では筋層に届かないことがある
刺入部位が不適切神経損傷や局所反応のリスクが上がる

投与経路の誤りが起きた場合は、自己判断で「もう一度打ち直す」「追加で注入する」といった対応は避けます。まず、医師・責任者へ報告し、薬剤名、投与量、投与部位、投与経路、針の長さ、患者さんの状態を記録します。

CDCのPink Bookでは、推奨された投与経路から外れると、ワクチンの有効性低下や局所反応増加につながる可能性があり、誤った経路で投与された場合に有効な接種とみなされないワクチンもあると説明されています。

Immunize.orgの専門家向けQ&Aでは、誤った経路でワクチンを投与した場合の対応はワクチンごとに異なるとされ、たとえばB型肝炎、狂犬病、HPV、不活化インフルエンザワクチンが皮下投与された場合は有効な接種として数えず、筋肉内に再接種すると説明されています。一方、A型肝炎、MenACWY、IPV、PPSV23、COVID-19、帯状疱疹ワクチンなどでは、皮下投与されても再接種不要とされるものがあります。

日本の現場では、国内の添付文書、自治体手順、施設のインシデント対応手順に従うことが前提です。特にワクチンは製品ごとに扱いが異なるため、「誤投与=必ず打ち直し」「誤投与=必ず有効」と単純化しないようにしましょう。

筋肉注射のよくある疑問

筋肉注射の後は揉んでもいい?

ワクチン接種後は、接種部位を揉む必要はありません。厚生労働省関連資料では、接種後は揉まずに軽く押さえることが示されています。日本小児科学会も、接種後は接種部位をもむ必要はなく、ガーゼや綿球で数秒軽く押さえるとしています。強く揉むと、痛みや局所反応を助長する可能性があります。出血しやすい患者さんでは、揉まずに圧迫時間を長めにとることが大切です。

骨に当たったらどうする?

針が骨に当たった場合は、無理に進めず、2〜3mm引き戻してから注入する対応が示されています。ただし、強い痛みやしびれがある場合は注入せず、針をいったん抜いて対応します。骨に当たるリスクは、筋肉量が少ない人、痩せ型の人、針が長すぎる場合に高くなります。刺入前に筋肉量と針の長さを確認しましょう。

利き腕と反対側に打つべき?

一般的には、接種後の痛みを考えて非利き腕を希望する患者さんが多いです。ただし、肩の痛み、手術歴、リンパ浮腫、シャント、麻痺、外傷、皮膚トラブルなどがある場合は、接種部位を検討する必要があります。カナダの予防接種ガイドでは、局所リンパ浮腫、腋窩リンパ節郭清、A-Vシャントなどでリンパ循環が障害されうる部位では、可能であれば代替部位を検討するとされています。

同時接種のときはどうする?

日本小児科学会は、同時接種では異なる解剖学的部位への接種が望ましく、同じ解剖学的部位に接種する場合は2.5cm以上離すとしています。複数ワクチンを接種する場合は、どの部位にどのワクチンを接種したか記録することも重要です。接種後に局所反応が出た場合、どのワクチンに関連する反応か判断しやすくなります。

筋肉注射は皮下注射より痛い?

厚生労働省の新型コロナワクチンQ&Aでは、筋肉注射は皮下注射よりも特別に痛みが強い注射方法ではないと考えられていると説明されています。また、皮下注射と筋肉注射を比べた臨床研究では、筋肉注射は皮下注射に比べて注射部位の痛みなどの局所反応が少なかったという報告があるとされています。痛みの感じ方には個人差があります。接種前の説明、リラックスした姿勢、適切な部位選択、安定した刺入・注入が大切です。

筋肉注射の手技をアップデートして、安全な看護につなげよう

筋肉注射の刺入部位が「変わった」と言われる背景には、神経損傷やSIRVAなどの合併症を避けるために、より解剖学的に安全な手技が重視されるようになった流れがあります。看護師が押さえておきたいポイントは、次の通りです。

ポイント内容
部位成人のワクチン接種では三角筋中央部が基本。小児は年齢に応じて大腿前外側部・三角筋を選ぶ
姿勢腕を自然に下ろし、腰に手を当てる姿勢は避ける
ゲージだけでなく長さが重要。体格・筋肉量・部位で選ぶ
逆血確認ワクチン接種では原則不要
接種後揉まずに軽く押さえる
リスク回避高すぎる刺入はSIRVA、低すぎる刺入や内旋姿勢は神経損傷に注意
ミス対応投与経路を誤った場合は自己判断せず、報告・記録・製品別確認を行う

筋肉注射は、手技そのものはシンプルに見えます。しかし、安全に実施するには、部位の解剖、薬剤の投与経路、針の選択、患者さんの姿勢、接種後の観察まで一連の流れを理解しておく必要があります。ブランク明けの看護師さんや、ワクチン接種業務に入る看護師さんは、この記事をきっかけに、所属施設の手順書や最新資料も確認しておきましょう。

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参考文献

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