はじめに
看護師の採用活動は、同じ「看護師を募集する」という目的であっても、診療科や働き方の条件、そして地域によって、候補者となる層へのアプローチ方法が大きく異なります。現在、採用活動の主流となっている求人検索エンジン(Indeed、求人ボックス、スタンバイ)は、それぞれに異なる特徴や強みを持っています。これらの特性を理解し、状況に応じて使い分けることで、採用活動の効率を高め、より良いマッチングへと繋げることが可能とされています。この記事では、医療機関の採用担当者の方々が日々の業務の中で実践しやすいように、「診療科」と「地域」という二つの軸で、各媒体の運用ポイントを、公開されている情報や具体的な事例を交えながら整理していきます。
背景・課題:看護師採用の候補者層は均一ではない
看護師の人材不足は、日本全国で構造的な課題となっており、特に「2025年問題」の文脈で、その需給のひっ박は深刻なテーマとして語られています。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となることで、医療や介護の需要が今後さらに増大すると見込まれています。一方で、看護師の供給は、離職率の高さや、結婚・出産といったライフイベントに伴う離職などにより、常に不安定な状況にあります。
このような環境下では、これまでと同じ求人媒体を同じ方法で運用し続けても、安定した成果を得ることは難しくなってきています。だからこそ、「地域(都市部か、郊外か)」「診療科(急性期か、慢性期か、専門性が高いか)」「働き方(夜勤の有無、オンコールの担当、時短勤務の可否など)」といった条件に応じて、最適な媒体を選び、アプローチ方法を細かく変えていく必要があります。
判断材料の一つとして、各媒体の規模感も参考になります。例えば、価格比較サイトで知られるカカクコムが運営する「求人ボックス」は、2024年3月時点で月間ユーザー数が1,000万人を突破したと公表しており、近年急速に利用者数を伸ばしている媒体の一つとして注目されています。また、「スタンバイ」も同様に月間1,000万人を超えるユーザーがいるとされ、特にYahoo! JAPANとの連携によって、他の媒体とは異なるユーザー層へアプローチできる点が特徴として挙げられます。それぞれの媒体が持つ独自の強みを理解することが、採用戦略を立てる上での第一歩となります。
実例紹介:医療機関での媒体活用のヒント
具体的な事例を見ることで、自院の採用活動に応用できるヒントが見つかるかもしれません。ここでは、実際に医療機関で行われた媒体活用の取り組みをいくつか紹介します。
1) 仙台圏の病院:勤務コースの見直しと求人表現の調整(Indeed)
宮城県にある名取熊野堂病院の事例では、看護師の多様な働き方のニーズに応えるため、柔軟な勤務コースを設けたことが紹介されています。例えば、「日勤のみの正社員」や「夜勤専従の正社員」といった選択肢を用意し、それを求人票で明確に打ち出しました。さらに、地域の給与水準を調査し、相場に合わせた夜勤手当の金額を具体的に記載するなど、求職者にとって魅力的に映る情報を前面に出す工夫をしています。この事例が示唆に富むのは、単に求人を出すだけでなく、媒体の担当者と協力し、蓄積されたデータに基づいて「どのような言葉が求職者に響くのか」という仮説を立て、求人票の表現を何度も見直し、磨き上げていった点です。
2) 介護・看護の難採用職種:採用サイトとの連携で露出を強化
採用が難しいとされる職種、特に看護師や介護士の募集において、自院の採用サイトを持つことの有効性を示す事例もあります。リクルートが提供する「Airワーク 採用管理」のようなサービスを利用して簡易的な採用サイトを構築し、そこへ掲載した求人情報をIndeedへ適切に連携させることで、これまで届かなかった候補者からの応募に繋がったケースが報告されています。媒体の記事によると、こうした採用サイトは一度作成すれば継続的に情報を発信し続ける「資産」となり、検索エンジンを経由して長期的に求職者の目に触れる機会を確保する上で有効な手段とされています。
3) 検索エンジン型媒体の複数併用:求人ボックスの柔軟な配信設定で補完
一つの媒体に絞るのではなく、複数の媒体をそれぞれの特性に合わせて使い分ける運用も効果的です。ある運用事例では、Indeedを主軸としつつ、求人ボックスを併用することで、より質の高い応募(有効応募)の割合を高めることに成功したと報告されています。その理由として、求人ボックスが持つ配信設定の柔軟性が挙げられています。求人タイトルや配信対象とするキーワードを細かく設定・変更できるため、診療科や働き方のバリエーションが多い医療機関の募集とは特に相性が良い傾向があるとされています。
解決アプローチ:診療科と地域で媒体を使い分ける
以下に示すのは、各媒体が公表している特徴と、看護師採用の現場で得られる感覚を基にした、媒体使い分けの一つのモデルです。もちろん、これを一度にすべて実践する必要はありません。まずは自院の状況に合わせて、現場の負担が少ない範囲から段階的に試してみてください。
A. 大都市圏(東京23区・大阪市・名古屋市・福岡市など)
外来クリニック/日勤中心の職場
この領域での狙いは、駅名や診療領域、働き方の条件を組み合わせた具体的な検索キーワードで探している求職者を的確に捉えることです。
- Indeedは、自由な言葉(フリーワード)での検索に強い特性があります。そのため、「〇〇駅 看護師 日勤のみ」や「渋谷 内科クリニック 駅近」といった、求職者が直接入力するであろう言葉の組み合わせで上位に表示されるよう、求人票のキーワードを意識することが有効です。
- 求人ボックスは、広告キャンペーンの分け方や、タイトル、配信対象の設定が細かく行える点が強みです。例えば、「山手線沿線グループ」「〇〇科専門クリニックグループ」のようにキャンペーンを分け、それぞれの効果を可視化しながら運用することで、効率的なアプローチが可能になります。
実装のコツ(例):
- 求人票のタイトルに、「〇〇駅徒歩3分」「週3コマからOK」「残業月5時間以内」「〇〇(電子カルテ名)導入済み」など、求職者が知りたいであろう具体的な情報を盛り込みます。
- 渋谷駅や新宿駅のように競合が多いエリアでは、求人ボックス側でその駅周辺に絞って入札を強化し、一方でIndeed側では「糖尿病内科」「内視鏡介助」といった、より専門的な診療科関連のキーワードを網羅的に含めることで、検索の拾い漏れを防ぐといった戦略が考えられます。
- 「午後のみ勤務」「週1日だけ」「夕方の診察時間のみ」といった、短時間・短日数の働き方の募集は、求人ボックスの柔軟なターゲティング設定を活かし、それぞれ別の広告として配信することで、より関心の高い候補者に情報を届けやすくなります。
美容クリニック/自費診療
この領域での狙いは、医療系のキーワードだけでなく、美容に関心のある層が検索するような、より広範なキーワードで求人情報を表示させることです。
- 大都市圏の美容クリニックは検索される回数が多い一方で、競争も非常に激しい分野です。そのため、求人ボックスを活用し、「職種タイトルの最適化(例:美容皮膚科ナース、アートメイク看護師など)」や、「対象外キーワードの設定(例:自院では扱っていない施術名などを除外する)」を細かく行うことで、無駄なクリックを減らし、費用対効果を高める運用が価値を持ちます。
- Indeedでは、求人票の本文やセクションの見出しに、具体的な症例名や使用している機器名(例:医療脱毛機器の名称、ピコレーザーなど)を適切に配置することで、専門的な情報を探している求職者の検索に合致しやすくなります。ただし、キーワードを不自然に羅列すると逆効果になる可能性があるため、あくまで自然な文章の流れを心がけることが大切です。
B. 近郊・ベッドタウン(埼玉県、千葉県、神奈川県の中核市など)
訪問看護/時短・週1日OKの職場
この領域での狙いは、子育て世代や、別の仕事と両立したいと考えている層へ、確実に情報を届けることです。
- スタンバイは、Yahoo! JAPANと連携しているため、そのトップページや検索結果から求人情報への導線が確保されています。そのため、主婦層やミドル世代の利用者が多いとされるYahoo!のユーザーに広くアプローチしやすいという特徴が紹介されています。「週1日だけ」「短時間勤務」といった柔軟な働き方を希望する層との相性が良いと考えられます。
- Indeedでは、「週1日OK」「時短勤務可能」「直行直帰可」といった働き方に関するキーワードを、求人票本文のできるだけ冒頭に近い位置に明記することで、一覧表示された際に求職者の目に留まりやすく、クリックを促す効果が期待できます。実際に、これらのキーワードを含んだ求人掲載は多数見られます。
療養型病院・回復期リハビリテーション病院・介護老人保健施設
この領域での狙いは、夜勤手当の金額や希望休の取りやすさなど、働く上での実質的な条件を明確に伝え、求職者の不安を解消することです。
- 先ほど紹介した名取熊野堂病院のIndeed活用事例のように、「夜勤のみの正社員」「日勤のみの正社員」といった形で勤務コースを分け、働き方の柔軟性を具体的に提示すると、応募者の反応が改善されるケースがあります。
- 求人ボックスは配信設定の柔軟性があるため、「夜勤多め希望者向け」「夜勤なし希望者向け」「ブランクのある方歓迎」など、対象者ごとに広告セットを分けて作成し、地域の給与相場などを考慮しながら、それぞれに合った訴求文を微調整していくといった運用が効果的です。
C. 地方中核都市・郡部
総合病院・クリニックが混在するエリア
この領域での狙いは、まず広く情報を届けることを重視しつつ、地名の表記を細かく調整して、地域に密着した探し方をする求職者を逃さないことです。
- スタンバイはYahoo!検索からの流入が見込めるため、他の求人媒体だけではアプローチしきれていなかった層を補完できる可能性があると紹介されています。特に郡部など、求職者を探す選択肢が限られるエリアでは、検索の入口を多様化するという意味で、スタンバイを併用する価値は高いと考えられます。
- 求人ボックスでは、「〇〇町」や「〇〇バス停前」といった、より詳細な地名を求人タイトルに含めるなど、地域固有の検索ニーズにきめ細かく対応することが可能です。また、クリック課金制で少額から始めやすいという利点も紹介されており、費用を抑えながら試すことができます。
- Indeedはフリーワード検索への対応力が高いため、「〇〇病院 整形外科」といった具体的な施設名や科名での検索や、「検査室」「透析室」「外来のみ」「オンコールなし」など、現場で使われる実務的な用語を求人票に網羅することで、経験者の検索を取りこぼすリスクを減らせます。
媒体ごとの特徴比較
科目別の出し分けテンプレート
診療科の特性に合わせて、媒体の使い分けを考える際の基本的な考え方を整理します。
表現づくりの基本:検索キーワードと求人内容の一致
どの媒体を使うにしても、基本となるのは求人票の中身です。求職者がどのような言葉で仕事を探すかを想像し、その言葉を求人票に盛り込むことが大切です。
タイトルに入れるべき具体的な言葉の例
- 地名・立地:駅名、徒歩分数(例:〇〇駅徒歩5分)
- 診療科:小児科、整形外科、内視鏡、健診センター、透析、美容皮膚科など
- 働き方:週1日〜、午前のみ、時短勤務、夜勤専従、オンコールなし、扶養内考慮
- 設備・環境:電子カルテのメーカー名(もし公開可能であれば)、更衣室・休憩室完備
- 教育体制:プリセプター制度あり、同行訪問あり、初期OJT(On-the-Job Training)期間の目安
本文の冒頭で伝えるべき「候補者が優先的に知りたい情報」
求職者が求人票を開いて、最初に目にする部分に、最も知りたいであろう情報を簡潔に一覧化すると効果的です。
- 具体的なシフトの例
- 給与(時給や月給の幅)、各種手当(資格手当、夜勤手当など)の詳細
- 休みの希望を出す際の手順や通りやすさ
- 夜勤手当の1回あたりの具体的な金額
- 未経験者やブランクのある方への教育・同行期間の目安
- 固定残業代が含まれているか否か、含まれている場合はその時間と金額
検索行動に合わせた言葉の自然な配置
特にIndeedでは、検索されたキーワードと求人本文の内容の一致度が、表示順位に影響するとされています。そのため、単にキーワードを並べるのではなく、仕事内容や職場の紹介文の中に、これらの具体的な言葉を自然な文章として散りばめることを意識してみてください。
小さく始めて、効果が出た領域を伸ばす
新しい媒体を試す際は、最初から大きな予算をかける必要はありません。
- 求人ボックスは、クリック課金制で少額からスタートできるプランが紹介されています。「まずは数万円から」といった規模で、自院のエリアや診療科でどのような反応があるかを試すことが可能です。
- スタンバイは、Yahoo! JAPANとの連携により、既存の採用チャネルとは異なる新しい入口を確保できます。現在の媒体での応募が頭打ちになっている場合に、補完的な軸として試してみる価値があります。
- Indeedは、「求人票のキーワードを最適化し、反応の良い診療科や駅周辺の求人を強化していく」というのが基本的な改善サイクルです。事例にもあるように、求人票で使う言葉を磨き、求職者の検索意図との一致度を高めていく地道なアプローチが有効とされています。
よくあるつまずきと、その回避策
つまずき1:媒体の数を増やしたのに、応募が増えない
- 回避策:単に媒体を横並びで増やすのではなく、それぞれの媒体に「役割」を持たせることが大切です。「科目×地域×働き方」の軸で、この条件の募集はスタンバイ、こちらの条件はIndeed、というように役割を分担します。そして、それぞれの媒体で検索キーワードとの一致度を見直し、求人タイトルと本文を都度調整していくことが求められます。
つまずき2:クリックはされるのに、応募に繋がらない
- 回避策:求人票を開いた後の、本文の冒頭部分の情報密度を高めることを検討します。特に「時短勤務の可否」「夜勤手当の額」「オンコールの有無と待機手当」「入職後の教育・同行の日数」といった、求職者が働く上で特に気にするであろう条件は、最優先で具体的に記載します。また、ベッドタウンのエリアであれば、主婦層へのリーチを増やすためにスタンバイを追加してみるのも一つの手です。
つまずき3:地方や郡部で、求人情報自体があまり見られていない
- 回避策:求人ボックスで、地名の粒度を「〇〇町」「〇〇バス停」といったレベルまで細かく設定してみます。また、スタンバイを併用してYahoo!の広い面に情報を露出させ、補完します。Indeedでは、改めて施設名、診療科、働き方に関するキーワードが求人票に適切に含まれているか、その一致度を見直すことが基本となります。
まとめ:同じ「看護師募集」でも、媒体の役割を変える
採用活動を成功させるためには、画一的なアプローチではなく、状況に応じた戦略的な媒体の使い分けが有効とされています。
- 大都市の駅前クリニックの外来募集なら:Indeedで駅名と科名の一致度を高め、求人ボックスで競合の多いエリアの入札を微調整する。
- 近郊エリアの訪問看護ステーションなら:スタンバイで主婦・ミドル層へ広く情報を届け、Indeedで「週1日」「時短」といったキーワードを明示する。
- 地方の総合病院や療養型施設なら:求人ボックスで地名の粒度を細分化し、スタンバイで検索の入口を多様化。Indeedでは勤務コースの柔軟性や手当の具体的な金額を丁寧に記載する。
この考え方を基に、まずは負担の少ない範囲から小さく試し、良い反応があった媒体やアプローチを伸ばしていくことで、無理なく採用活動を改善していくことが可能です。
現場の負担を下げたいときの選択肢:クーラの活用
これまで述べてきたような、媒体ごとの細かな運用や求人票の書き分けは、効果が期待できる一方で、日々の業務に追われる採用担当者の方にとっては大きな負担となり得ます。そのような場合に、一つの選択肢として「クーラ」のようなプラットフォームの活用が考えられます。
クーラでは、短期やスポット(単発)での勤務から募集を始められるため、本格的な採用活動の前に、まずは自院の働きやすさを知ってもらう、といった使い方が可能です。また、効果的な求人票の作成に関する下書き支援や、最初の数シフトをスムーズに運用するためのサポートなど、院内の負担を抑えながら利用できる仕組みが整っています。クーラは、登録している看護師数が国内最大規模のプラットフォームの一つであり、最短で今週中といったスピード感で応募が届くことも期待できます。
「まずは週1日の勤務から、職場の雰囲気を確かめてもらいたい」「訪問看護で、オンコールなしの担当者だけを急募したい」など、段階的な導入や特定のニーズに合わせた利用について、気軽に相談することが可能です。ご興味があれば、ぜひ公式サイトをご覧ください。
付録:媒体比較の要点(採用担当者向けに要点だけ)
- Indeed:フリーワード検索との一致度が重要。診療科、駅名、働き方に関する言葉を、自然な文章として本文に盛り込むことが基本。
- 求人ボックス:配信設定の柔軟性が高い(タイトル最適化、対象外キーワード、キャンペーン分割など)。少額のクリック課金で検証を始めやすい点が特徴。
- スタンバイ:Yahoo! JAPANの広い面に同時露出できる。主婦層やミドル層、また地方における採用の入口を広げる上で有利とされる。
参考にした一般公開情報(一部抜粋)
- 看護師不足と2025年問題(Indeedキャリアガイド等の各社解説記事)
- 求人ボックスの規模・特徴(株式会社カカクコムの公式発表、及び各社解説記事)
- スタンバイのユーザー規模・Yahoo!連携(公式プレスリリース、及び各社解説記事)
- 医療機関のIndeed活用事例(名取熊野堂病院の事例紹介ページ)
- 求人ボックス運用の工夫事例(株式会社ノーザンライツ等の広告代理店による解説記事)
必要十分な情報を、最小限の負荷で整えることができれば、求人媒体は採用活動の力強い味方になります。まずはご自身の施設に合った方法で小さく媒体の出し分けを試し、良い結果が出たものから本格的に運用していく、という進め方を検討してみてはいかがでしょうか。クーラの支援が必要だと感じられた際には、いつでもお気軽にお声がけください。