はじめに
「パートの看護師さん、週に何時間から社会保険に入ってもらうのが正しいのだろうか」「雇用保険には『31日ルール』があると聞いたけれど、更新ありきの1ヶ月契約の場合はどう判断すれば…」「複数のクリニックを掛け持ちしている方の保険手続きはどう進めれば?」
非常勤や時短勤務、複数の職場での複業(ダブルワーク)といった働き方が広がる中で、看護師の社会保険・雇用保険の適用に関する疑問は、多くの医療機関で共通の課題となっているのではないでしょうか。制度が複雑で、近年は法改正も続いているため、現場のご担当者様が判断に迷われる場面も少なくないかもしれません。
この記事は、病院やクリニックで看護師の採用や労務管理に携わる院長、看護部長、理事長、事務長、人事ご担当者の皆様に向けて、社会保険(健康保険・厚生年金保険)と雇用保険の加入要件を、できるだけ分かりやすく整理したものです。
結論からお伝えすると、大きな原則は、社会保険が「週20時間・月額8.8万円・2ヶ月を超える雇用見込みなどの複数要件」、雇用保険が「週20時間・31日以上の雇用見込み」となります。特に社会保険については、2024年10月からの適用拡大の内容も反映しています。
日々の業務でお忙しい中でも、必要な情報をすぐにご確認いただけるよう、具体的なケースを交えた早見表や、現場でつまずきやすいポイントの解説、院内での業務手順の整え方まで、順を追って解説していきます。この記事が、皆様の疑問を解消し、安心して採用活動を進めるための一助となれば幸いです。
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社会保険(健康保険・厚生年金)の適用ラインをまず押さえる
まず、病気やけが、または老後の生活を支えるための公的な保障である、健康保険と厚生年金保険(総称して「社会保険」)の加入要件について見ていきましょう。
正職員のように、週の所定労働時間および月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上である場合は、当然に加入対象となります。例えば、正職員の週の労働時間が40時間の場合、週30時間以上働くパート・アルバイトの看護師は、原則として社会保険の加入対象となります。
一方で、この「4分の3基準」を満たさない短時間で働く方々についても、社会保険の適用が段階的に拡大されています。いわゆる「106万円の壁」とも関連するこの制度では、以下の要件をすべて満たした場合に、社会保険への加入が必要とされています。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 所定内賃金が月額8万8,000円以上であること
- 雇用見込みが2ヶ月を超えていること
- 学生でないこと
これらに加えて、勤務先の事業所の規模に関する要件があります。この規模要件は年々緩和されており、直近の2024年10月からは「厚生年金保険の被保険者数が常時51人以上」の事業所が対象となりました。
各要件のポイント解説
それぞれの要件について、もう少し詳しく見ていきましょう。
「週の所定労働時間20時間以上」の考え方
これは、雇用契約書や労働条件通知書で定められた、残業時間を含まない正規の労働時間を指します。契約上は週18時間でも、恒常的に残業が発生して毎週20時間を超えている、という場合はすぐに対象となるわけではありません。ただし、その状態が続く場合は、後述するように実態に合わせた対応が求められることがあります。週単位で時間が定まっていないシフト制の場合は、月単位の所定労働時間を週単位に換算して判断する、といった方法がとられます。
「所定内賃金が月額8万8,000円以上」の計算方法
ここでいう「所定内賃金」とは、基本給や固定の手当など、毎月決まって支払われる賃金のことを指します。判断の際に注意したいのは、以下のものは含まない、という点です。・残業代、休日出勤手当などの割増賃金・通勤手当・賞与や臨時的に支払われる賃金・最低賃金に算入しないと定められた賃金(例:精皆勤手当、家族手当)
時給で働く方の場合は、「時給 × 週の所定労働時間 × 52週 ÷ 12ヶ月」といった計算式で月額を算出し、8万8,000円以上になるかを確認します。
「雇用見込みが2ヶ月を超える」の判断
当初の雇用期間が2ヶ月以内であっても、雇用契約書に「契約を更新する場合がある」といった記載があり、かつ同様の契約で更新された実績がある場合などは、「2ヶ月を超える見込み」があると判断されることがあります。
「学生でないこと」の例外
この要件は、学業が本分である学生を適用から除外するためのものです。ただし、夜間大学や定時制高校に通う学生、あるいは休学中の方などは、一般の労働者と同様とみなされ、他の要件を満たせば加入対象となる場合がありますので、個別の確認が推奨されます。
勤務先の規模要件(被保険者数)の変遷
この短時間労働者への適用拡大は、より多くの方が社会保険の恩恵を受けられるように、段階的に進められてきました。・2016年10月〜:被保険者数501人以上の企業・2022年10月〜:被保険者数101人以上の企業・2024年10月〜:被保険者数51人以上の企業
医療法人や社会福祉法人も、この被保険者数のカウントに含まれます。自院がどの時点から対象となったか、改めて確認しておくことが大切です。なお、被保険者数が50人以下の事業所であっても、労使の合意があれば任意で短時間労働者を社会保険に加入させることができます(任意適用)。
雇用保険の適用ライン(失業給付・育児介護給付の土台)
次に、失業した際の生活を支える給付(基本手当)や、育児休業・介護休業中の給付金の土台となる雇用保険についてです。こちらは社会保険とは少し異なる基準で加入要件が定められています。
雇用保険は、雇用形態(パート、アルバイトなど)にかかわらず、以下の2つの要件を両方満たす場合に、原則として被保険者となります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
「31日以上の雇用見込み」の具体的な判断
この「31日以上の雇用見込み」という表現は、少し分かりにくいかもしれません。厚生労働省の資料では、以下のような場合に「見込みあり」と判断される例が示されています。
・雇用期間の定めがなく雇用される場合・雇用期間が31日以上である場合・雇用契約に更新規定があり、31日未満で雇止めされることが明示されていない場合・雇用契約に更新規定はないが、同様の契約で雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合
例えば、「1ヶ月契約で、更新の可能性あり」として採用した場合や、過去に同じような1ヶ月契約の看護師が結果的に数ヶ月勤務した実績があるような場合は、初日から加入手続きが必要になる可能性が高いと考えられます。逆に、「25日間の期間限定」といったように、明確に31日未満で終了することが決まっている場合は、対象外となります。
日雇いや単発勤務の扱い
数日単位の単発(スポット)勤務や、日々雇用契約を更新する形式の日雇労働の場合、原則としては一般の雇用保険とは異なる「日雇労働被保険者」の制度が適用されることがあります。ただし、ここでの注意点は、形式上は日雇いや単発であっても、同じ事業主のもとで働き続けることで、実質的に「31日以上の雇用見込み」が生じたと判断されれば、その時点から一般の雇用保険の被保険者として扱われる可能性がある、という点です。現場での判断に迷う場合は、管轄のハローワークに確認することが推奨されます。
早見表:時短・複業・変動シフトの“加入/非加入”判定
ここまでの内容を、具体的な勤務パターンに当てはめて整理してみましょう。医療現場でよくあるケースを想定して、社会保険と雇用保険の加入要件を満たすかどうかを一覧にしました。
この表はあくまで基本的な考え方を示すものです。特に、契約上の時間と実際の実労働時間が乖離しているケースや、変動シフトの週換算については、個別の状況に応じた判断が求められます。
例えば、一時的な繁忙期に残業が増えて週20時間を超えたとしても、すぐに加入対象となるわけではありません。しかし、2ヶ月連続で週20時間を超える実労働があり、今後もその状態が続くと見込まれる場合には、3ヶ月目から社会保険の加入対象者として取り扱う、という運用が日本年金機構などから示されています。これは、実態として契約内容が変更されたとみなされるためです。
複数事業所で働く看護師の“合算”と注意点
近年、複数のクリニックや病院を掛け持ちして働く看護師が増えています。このような場合の社会保険や雇用保険の扱いは、制度ごとに異なるため、特に注意が必要です。
社会保険(健康保険・厚生年金)の複数事業所勤務
2つ以上の適用事業所(例:AクリニックとB病院のどちらも社会保険の適用事業所である)で同時に勤務し、それぞれで社会保険の加入要件を満たす場合、少し特殊な手続きが必要になります。
この場合、働くご本人が、主にどちらの事業所で保険に加入するか(主たる事業所)を選択し、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を年金事務所に提出します。
手続き後の保険料の計算は、それぞれの事業所から受け取る報酬月額を「合算」して、1つの標準報酬月額を決定します。そして、その標準報酬月額に基づく保険料総額を、各事業所の報酬額に応じて按分し、それぞれの給与から天引きする、という流れになります。
例えば、Aクリニックで10万円、B病院で15万円の報酬がある場合、合計の25万円を基準に標準報酬月額が決まり、その保険料を10:15の割合でそれぞれの事業所が負担(労使折半)することになります。この手続きは、兼業・副業が広がる中で、実務上対応する機会が増えているものの一つです。
雇用保険のマルチジョブホルダー制度
一方、雇用保険は、原則として「主たる賃金を受ける1つの事業所」でのみ被保険者となる、という考え方が基本です。そのため、Aクリニックで週15時間、B病院で週10時間働いていても、合計では25時間になりますが、それぞれの事業所で週20時間未満のため、原則としてどちらの雇用保険にも加入できません。
この課題に対応するため、2022年1月から「マルチジョブホルダー制度」という特例が設けられました。これは、以下の要件を満たす方が、ご本人からハローワークに申し出ることで、特例的に雇用保険の被保険者となることができる制度です。
・複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること・2つの事業所(合算の対象は2つまで)の労働時間を合計して、1週間の所定労働時間が20時間以上であること・それぞれの事業所での雇用見込みが31日以上であること
この制度は、特に経験豊富な高齢の看護師が、体力的にも無理のない範囲で複数の職場を掛け持ちしながら働き続けることを支援し、生活の安定を図る上で有効な選択肢とされています。
ここで迷いやすい落とし穴
社会保険と雇用保険の扱いの違いは、現場で混乱しやすいポイントです。・社会保険は、要件を満たす複数の職場があれば「合算して按分」が前提。・雇用保険は、原則「1つの事業所ごと」で判断。週20時間の壁は事業所ごとに超える必要がある。・例外的に、65歳以上の方に限り、2つの事業所の労働時間を「合使算して加入できる特例(マルチジョブホルダー制度)」がある。
65歳未満の方が複数の職場の労働時間を足し合わせて、雇用保険に入ることはできない、という点を正しく理解しておくことが重要です。
実例で学ぶ:現場がつまずく“ライン”の読み違い
制度を理解していても、実際の現場では判断に迷うケースが発生します。ここでは、よくあるつまずきやすい事例と、その考え方を見ていきましょう。
実例1:契約上は週18時間、実態は2ヶ月連続で20時間超え
Aクリニックでは、あるパート看護師と週18時間の契約を結んでいました。しかし、外来が混み合う曜日が続いたため、実際には2ヶ月連続で毎週22〜24時間の勤務となりました。この場合、前述の通り、一時的なものではなく、今後も同様の勤務が継続する蓋然性が高いと判断されれば、3ヶ月目の初日から社会保険の被保険者として取り扱う必要があります。この際、実態に合わせて契約上の所定労働時間を見直すことも検討すべきです。勤怠管理システムなどで実労働時間を常に把握し、契約時間との乖離がないか定期的に確認する仕組みが求められます。
実例2:1ヶ月契約の繰り返しと「31日見込み」の判断
B病院では、看護師を「1ヶ月契約、更新の可能性については明示なし」という条件で採用しました。「契約期間は31日未満だから雇用保険は不要」と当初は判断していました。しかし、管轄のハローワークに確認したところ、その病院で過去に同様の1ヶ月契約で採用された看護師の多くが、結果的に数ヶ月更新して勤務していた実績がありました。この場合、個別の契約書に更新規定がなくても、「同様の契約における更新実績」から、雇い入れの時点から「31日以上の雇用見込みがある」と判断され、初日からの雇用保険加入を指導されるケースがあります。契約の形式だけでなく、運用の実態が問われることを示す事例です。
実例3:労働条件通知書での明記不足によるトラブル
C医院では、採用した非常勤看護師に渡した労働条件通知書に、社会保険の加入に関する項目が「無」となっていました。しかし、その後シフトが増え、加入要件を満たす状態になりました。医院側が加入手続きを進めようとしたところ、看護師から「加入しないという条件で合意したはず。手取りが減るのは困る」という申し出があり、トラブルに発展してしまいました。労働基準法では、労働条件通知書に社会保険の適用に関する事項を明記することが義務付けられています。例えば、日本赤十字社が公開している雇用契約書の書式例などを見ると、「健康保険・厚生年金保険・雇用保険」といった項目が設けられており、加入の有無を明確に示すようになっています。採用段階で、「現在は要件を満たしませんが、勤務時間が増えて要件を満たした場合は、法律に基づき加入手続きを行います」といった点を明確に伝えておくことが、後の誤解を防ぐ上で非常に重要です。
実例4:派遣看護師の保険加入に関する認識のズレ
D施設では、看護師派遣会社から派遣された看護師を受け入れています。ある日、その看護師から「雇用保険に入っているか確認したい」と質問がありましたが、施設側では「派遣社員の保険は派遣元が管理するもの」という認識しかなく、詳しく答えられませんでした。派遣看護師の場合、社会保険や雇用保険の加入義務は、雇用主である派遣会社にあります。多くの派遣会社では、例えば「同一の派遣元との雇用契約が31日以上見込まれ、週20時間以上働く場合は雇用保険に加入」といったルールを定めています。受け入れ施設側が直接手続きをすることはありませんが、派遣看護師から質問があった際に、派遣元の担当者に確認するよう適切に案内できるよう、基本的な仕組みを理解しておくと、スムーズなコミュニケーションにつながります。
院内オペレーション:迷わないための“3ステップ”
多様な働き方の看護師が増える中で、保険適用の判断をその都度、場当たり的に行うのは大変です。院内で一貫した対応ができるよう、業務手順を整理しておくことをお勧めします。以下に、そのための3つのステップをご紹介します。
こうした業務手順の標準化は、短期間の「お試し勤務」からスタートするような採用方法と非常に相性が良いです。例えば、最初は雇用保険のみが適用される週20時間未満のシフトで勤務を開始し、ご本人の希望や業務への習熟度に合わせてシフトを増やし、社会保険の適用要件(週20時間・月額8.8万円など)に到達した段階で加入手続きに移行する、といった段階的な設計も可能です。
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看護師採用に効く“表示・説明”のコツ
保険の適用ルールは、採用活動においても重要なアピールポイントになり得ます。求職者である看護師に安心感を与え、誤解を生まないための表示や説明の工夫をご紹介します。
求人票に「保険の扱い」を具体的に明文化する
多くの求人票には「社会保険完備」と記載されていますが、これだけではパート・アルバイト希望者にとっては情報不足です。より親切な記載としては、以下のようなものが考えられます。
(記載例)・社会保険:週の所定労働時間が20時間以上、月額賃金88,000円以上など、法定の要件を満たした場合に加入します。・雇用保険:週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用が見込まれる場合に加入します。・保険料は給与から天引きされ、医院・法人とご本人で半分ずつ負担します。
このように、加入の基準となる時間や金額、労使折半といった基本的な仕組みまで書いておくことで、誠実な印象を与え、求職者も自身の働き方の希望と照らし合わせやすくなります。
面談時に“年収の壁”と手取りの見え方を簡潔に説明する
社会保険に加入すると、保険料が天引きされるため、額面上の給与が同じでも一時的に手取り額が減ることがあります。いわゆる「年収の壁」を意識して、加入を避けたいと考える方もいらっしゃいます。面談の際には、この点を正直に説明した上で、メリットを伝えることが大切です。例えば、政府広報などが発行している一般の方向けの解説資料(オンラインで入手可能)などを見せながら、「手取りは少し減りますが、将来受け取る年金が増えたり、病気やけがで働けなくなった際の傷病手当金が受けられたりと、保障が手厚くなるという長期的なメリットがあります」と、分かりやすい言葉で伝えることが有効です。
勤務時間の調整に関する相談窓口を明示する
「扶養の範囲内で働きたいので、月8.8万円未満に抑えたい」「今は子育てが大変なので、週20時間未満で働きたい」といった、個別のニーズを持つ看護師は少なくありません。こうした希望に対して、一方的に「ダメです」と拒否するのではなく、「契約上の時間は週18時間で組みますが、繁忙期には少し残業をお願いする可能性があります。その場合、年間を通じて扶養の範囲に収まるよう、翌月のシフトで調整することも相談できますよ」といったように、柔軟に対応できる範囲やルールを伝えると、安心して働き始めてもらいやすくなります。
このような採用広報の工夫や、求人票の具体的な文面作成は、手間がかかる部分でもあります。クーラの求人作成支援サービスでは、こうした注意書きの挿入や、現場の実情に合わせたテンプレートのご提案も行っておりますので、採用業務の時短にお役立ていただけます。:https://business.cu-ra.net/
FAQ:境界ケースをどう判断するか
最後に、特に判断に迷うことが多い境界線のケースについて、Q&A形式でまとめます。
Q. 週19時間契約ですが、繁忙期対応で2ヶ月連続して実労働が週20時間を超えました。どうすればよいですか?
A. 3ヶ月目から社会保険の加入対象者として手続きが必要になる可能性が高いです。ポイントは、その状態が「恒常的」といえるかどうかです。一時的なものではなく、今後も同様の勤務が見込まれる場合は、実態に合わせて加入手続きを行い、契約内容の見直しも検討することが望ましいとされています。
Q. 1ヶ月ごとの更新契約で、本人には「31日以上の雇用見込みはない」と説明しています。これでも雇用保険は必要ですか?
A. ご本人への説明内容だけでは、加入義務がないとは言い切れない場合があります。もし、同様の契約形態で過去に更新を重ねて31日以上勤務した実績がある場合や、契約書に形式的にでも「更新する場合がある」といった文言が含まれている場合は、たとえ口頭で否定的な説明をしていたとしても、雇い入れ初日からの加入が必要と判断される可能性があります。客観的な状況や実績が重視される点に注意が必要です。
Q. 複業で2つのクリニックで各週15時間、合計で週30時間働いている看護師がいます。雇用保険はどうなりますか?
A. 原則として、それぞれの事業所で週20時間未満のため、雇用保険の加入対象にはなりません。ただし、その方が65歳以上であれば、ご本人がハローワークに申し出ることで、2つの事業所の労働時間を合算して加入できる「マルチジョブホルダー制度」を利用できる可能性があります。
Q. 複数の事業所で社会保険に加入する場合、保険料はどちらの給与から引かれるのですか?
A. ご本人が「主たる事業所」を選択しますが、保険料はどちらか一方からまとめて引かれるわけではありません。2つの事業所の報酬を合算して決定された保険料総額を、それぞれの事業所の報酬額の割合に応じて按分し、各事業所の給与からそれぞれ天引きされる形になります。
まとめ:20時間・8.8万円・2ヶ月超・31日——4つの数字で迷わない
複雑に見える社会保険・雇用保険の加入ルールですが、現場で判断する際の基本となるポイントは、以下の4本柱に集約されます。
・社会保険(健康保険・厚生年金)の加入ライン→「週20時間」「月額8.8万円」「2ヶ月を超える雇用見込み」「学生でない」の4要件(+事業所規模51人以上など)をすべて満たすかどうか。
・雇用保険の加入ライン→「週20時間」「31日以上の雇用見込み」の2要件を満たすかどうか。
・複業(ダブルワーク)の扱い→社会保険は報酬を合算して保険料を按分。雇用保険は原則として事業所ごと(65歳以上は合算特例あり)。
・契約と実態の乖離への対応→契約上の所定労働時間と、実際の実労働時間が継続的に異なっている場合は、実態を重視して加入判断を見直す。
この4つの柱を院内の標準的な運用ルールとして整えておけば、非常勤・短時間・複業といった多様な働き方を希望する看護師の採用を、安心して進めていくことができるでしょう。
クーラ導入のご案内
短時間の「お試し勤務」から始めて、ご本人の希望や職場の状況に合わせて徐々に勤務時間を増やし、保険の加入要件に到達したタイミングでスムーズに手続きへ移行する。このような段階的な働き方の設計は、働き始める看護師にとって心理的なハードルが低く、受け入れる医療機関にとっても、ミスマッチを防ぎながら安全に雇用関係を築けるという利点があります。
クーラでは、こうした柔軟な採用計画の立案から、求人票の作成、応募者とのコミュニケーション、そして実際の労務管理に至るまで、一貫してサポートを提供しています。現場の負担を減らしながら、貴院に合った人材の採用を実現するために、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。
参考リンク(運用確認にご活用ください)
制度の詳細は、公的な情報源でご確認いただくのが最も確実です。日々の運用で迷った際には、以下のリンク先をご参照ください。
・社会保険の適用拡大に関するご案内(厚生労働省)・短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大(日本年金機構)・雇用保険の加入手続について(厚生労働省 Q&A)・複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き(日本年金機構)・雇用保険マルチジョブホルダー制度について(厚生労働省)
最後に
社会保険・雇用保険に関する法令や関連通達は、働き方の多様化に合わせて、今後も見直しが行われる可能性があります。この記事は、2025年9月時点の情報に基づき、現場での実務的な運用の一助となることを目指して作成しましたが、最終的な判断や手続きに際しては、必ず最新の公的資料をご確認いただくか、管轄の年金事務所やハローワーク、あるいは社会保険労務士などの専門家にご確認ください。
この記事が、皆様の医療機関における採用活動と労務管理の安心感を高める一助となれば、大変嬉しく思います。具体的な求人票の文面作成や、労務書式の整備など、個別のご相談がございましたら、下記よりお気軽にお声がけください。